アメリカ航空宇宙局(NASA)とオーストラリア宇宙庁(ASA)は、月面での実証実験ミッションに向けて両機関が合意に達したことを発表しました。このミッションはNASAが進めている月面探査計画「アルテミス」の下で実施されるもので、月面のレゴリス(月の砂)から酸素を抽出する技術の実証実験を行います。早ければ5年後の2026年にも、オーストラリア製の小型無人探査車(ローバー)が月面を走行する見込みです。
■NASAの実証実験ミッションにオーストラリアが探査車を提供NASAが推進しているアルテミス計画や将来の火星探査では、宇宙飛行士が月や火星に向かうことになります。有人探査では宇宙飛行士が生存したり地球へ帰還したりするための酸素・水・食料・燃料といった物資が欠かせませんが、これらすべてを地球から月や火星へ持ち込むには莫大なコストが掛かります。
そこで、氷や砂といった現地の資源を利用して水や酸素を確保する「その場資源利用(ISRU:In-Situ Resource Utilization)」技術が注目を集めており、開発が進められています。たとえば、2021年2月に火星へ着陸したNASAの探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」には酸素生成実験装置「MOXIE(Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment)」が搭載されていて、実際に火星の大気から酸素を生成することに成功しています。
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NASAによると、今回両国の宇宙機関が合意に達したミッションは月面におけるISRU技術の実証を目的としており、アメリカ製の着陸機にオーストラリア製の探査車(重量20kg以下)が搭載されます。着陸機には酸素抽出装置が搭載され、月面で集めたレゴリスからの酸素抽出を試みます。着陸機は自らレゴリスを集めることができますが、レゴリスを集めて着陸機に渡す機能を備えた探査車を同時に送り込むことで、ミッションの確実性を高めるのが狙いです。
NASAが推進する月探査・火星探査への参加を見据えたオーストラリア政府は同国の宇宙関連事業・技術への1億5000万豪ドルの投資を2019年9月に発表しており、オーストラリア製の探査車が参加する今回のミッションもその支援を受けることになります。ASAのエンリコ・パレルモ長官は「オーストラリアはロボットの遠隔操作技術・システムの分野で最先端にあります。これらは持続的な月面活動を確立する上で重要であるとともに、いずれは有人火星探査を支えることになるでしょう」とコメントしています。
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Image Credit: NASA
Source: NASA / ASA
文/松村武宏