タスマニア大学のJoshua Blackmanさんを筆頭とする研究グループは、2012年に発見された太陽系外惑星「MOA-2010-BLG-477Lb」について、恒星ではなく白色矮星を公転していることが明らかになったとする研究成果を発表しました。
太陽のように比較的軽い恒星はやがて赤色巨星へ進化してガスを放出し、芯の部分だけが残った白色矮星になるとされています。この系外惑星は、主星が赤色巨星から白色矮星へと進化する過程で破壊されることなく生き延びたのではないかと考えられています。
■発見から9年、恒星ではなく白色矮星を公転している可能性「いて座」の方向およそ6500光年先にある系外惑星「MOA-2010-BLG-477Lb」(本稿では以下「477Lb」)は、質量が木星の約1.4倍で、主星から約2.8天文単位(※)離れた軌道を公転しているとみられています。477Lbは今回の研究にも参加しているラスクンブレス天文台のEtienne Bacheletさんたちによって、2012年に「重力マイクロレンズ法」という手法を使って発見されました。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来
重力マイクロレンズ法とは、遠くにある恒星(光源)と地球の間を別の恒星(レンズ天体)が通過したとき、光源を発した光の進む向きがレンズ天体の重力の影響を受けて曲がることで時間とともに明るさが変化する「重力マイクロレンズ」効果を利用した観測手法です。
遠くの銀河を発した光の進む向きが手前の銀河や銀河団の重力によって曲げられることで像が歪んで見える「重力レンズ」と基本的には同じ効果ですが、重力マイクロレンズでは像の歪みは観測できず、光源の明るさの変化として観測されます。
このとき、光源となる星の手前を通過したレンズ天体が惑星系だった場合、光源の明るさの変化には恒星だけでなく惑星の重力の影響も加わるため、惑星の存在を検出することができるのです。
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477Lbの主星である「MOA-2010-BLG-477L」(本稿では以下「477L」)は質量が太陽の6割ほどの天体で、当初は恒星(主系列星)だと思われていました。
ところが、研究グループがハワイのマウナケア山にあるW.M.ケック天文台の「ケック望遠鏡」を使って赤外線の波長で477Lを観測したところ、その明るさは一般的な主系列星よりも暗いことが判明。観測データを分析したところ、477Lが褐色矮星(恒星と惑星の中間にあたる天体)、中性子星、ブラックホールである可能性も排除されたといいます。
研究に参加したタスマニア大学のJean-Philippe Beaulieuさんは「この結果は、この惑星が白色矮星を公転していることを意味します」と語ります。
■地球消滅後の太陽系の姿が垣間見える白色矮星へと進化した星を公転する系外惑星が見つかったのは、今回の477Lbが初めてではありません。2020年には白色矮星を周回する木星サイズの天体「WD 1856 b」が見つかったとする研究成果が発表されています。
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ただ、WD 1856 bは白色矮星から約0.02天文単位(地球から太陽までの距離の約2パーセント)しか離れておらず、約34時間ごとに1周する小さな軌道を描いています。これに対し、477Lbは白色矮星から3天文単位近く離れており、太陽から5.2天文単位離れた軌道を公転している木星により近いと言えます。
太陽もいずれは赤色巨星へと進化し、今から約50億年後には白色矮星になって恒星としての寿命を終えると考えられています。地球はその過程で膨張した太陽に破壊されるものの、木星や土星といった太陽から遠く離れた惑星は破壊を免れるのではないかと予想されています。Beaulieuさんは、白色矮星を公転する477Lbについて、地球消滅後の太陽系の姿をうかがわせるものだと語っています。
また研究グループは、NASAの新型宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン」(2020年代打ち上げ予定)によって白色矮星を公転する系外惑星の探査が行われることで、終焉を迎えた恒星の周囲で木星のような惑星が生き延びるのは一般的なのか、それとも赤色巨星へ進化した際に破壊されることのほうが多いのかが明らかになることに期待を寄せています。
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Image Credit: W. M. Keck Observatory/Adam Makarenko
Source: W.M.ケック天文台 / Media INAF
文/松村武宏