Infoseek 楽天

木星の衛星エウロパの希薄な大気中に水蒸気が持続的に存在する可能性

sorae.jp 2021年10月16日 11時37分

【▲ NASAの木星探査機「ガリレオ」が撮影したエウロパ(Credit: NASA/JPL-Caltech/SETI Institute)】

スウェーデン王立工科大学(KTH)のLorenz Rothさんは、木星の衛星エウロパの希薄な大気中に水蒸気が持続的に存在する可能性を示した研究成果を発表しました。

エウロパは氷の外殻の下に広大な内部海が広がっていると予想されており、今後数年以内に探査機が打ち上げられるアメリカや日欧のミッションによる探査対象となっています。今後の探査ミッションによる科学的成果とあわせて、今回の研究成果は太陽系の生命居住可能性についての理解を深めることにつながると期待されています。

■エウロパ表面から昇華したとみられる水蒸気が片側の半球に偏って存在

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡が2020年8月に撮影した木星(中央)とエウロパ(左)(Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M. H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team)】

直径3121kmのエウロパはこれまでに79個見つかっている木星の衛星では4番目に大きく(ガリレオ衛星では最も小さい)、太陽系全体では地球の月(直径3474km)に次いで6番目に大きな既知の衛星です。表面の平均温度は摂氏マイナス170度と寒く、地球表面の大気圧と比べて10億分の1と希薄ながらも酸素を主成分とした大気が存在しています。

これまでの「ハッブル」宇宙望遠鏡などの観測によって、エウロパでは表面から高さ100km以上まで水を吹き出す間欠泉が見つかっています。この水は氷の外殻とその内側にある岩石層の間に広がる内部海に由来するのではないかと考えられており(※)、広大な内部海では生命が誕生している可能性も指摘されています。

※…外殻内部の貯水池から噴き出しているとする説もあります(関連:隕石の衝突がエウロパの間欠泉を発生させる?)

【▲ エウロパの間欠泉を描いた想像図(Credit: NASA/ESA/K. Retherford/SWRI)】

間欠泉から吹き出した水はエウロパの大気に一時的な水蒸気をもたらしますが、今回Rothさんがハッブル宇宙望遠鏡の観測装置「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」による紫外線の波長域での観測データ(1999年、2012年、2014年、2015年に実施)を分析したところ、エウロパの大気中には間欠泉による一時的な供給以外にも持続的に水蒸気が存在していることを示す結果が得られたといいます。

この水蒸気はエウロパの公転方向とは反対側の半球(後方の半球、trailing hemisphere)の大気中にのみ偏って存在していて、公転方向と同じ側の半球(前方の半球、leading hemisphere)の大気中からは検出されていません。持続的に存在する水蒸気はエウロパの外殻を構成する氷が日光によって昇華することで生じるとみられていますが、前後の半球で偏って存在する理由はまだよくわかっていないといいます。

なお、Rothさん率いる研究グループは今年7月、木星の別の衛星ガニメデの希薄な大気中にも水蒸気が存在する証拠を示した研究成果を発表しています。Rothさんは、ガニメデとエウロパの希薄な大気で見つかった水蒸気が「氷衛星の大気についての理解を前進させます」と言及しています。

関連:木星の衛星ガニメデの希薄な大気に水蒸気が存在する証拠を発見、ハッブルによる観測成果

【▲ 木星探査機ジュノーが撮影したガニメデ(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Kevin M. Gill)】

エウロパは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機「エウロパ・クリッパー」(2024年打ち上げ予定)や、欧州宇宙機関(ESA)が主導し宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加する木星氷衛星探査計画「JUICE」(2022年打ち上げ予定)といった、数年以内に探査機の打ち上げが予定されているミッションの探査対象となっています。Rothさんは、これらの探査機が到着する前に氷衛星の理解が進むことで、貴重なミッションの期間を有効活用できるとコメントしています。

 

関連:木星の衛星エウロパの海底で今も火山活動? 生命の期待も

Image Credit: NASA/JPL-Caltech/SETI Institute
Source: ESA/Hubble / STScI
文/松村武宏

この記事の関連ニュース