こちらは「ペガスス座」の方向およそ2億2000万光年先にある相互作用銀河「Arp(アープ)86」です。相互作用銀河とは、互いに重力の影響を及ぼし合っている複数の銀河のこと。Arp 86とは1966年に天文学者のホルトン・アープがまとめた特異銀河(特異な形態を持つ銀河)のカタログ「アープ・アトラス」における呼び名で、2つの銀河はそれぞれ「NGC 7752」および「NGC 7753」とも呼ばれています。
大きいほうの渦巻銀河がNGC 7753で、その渦巻腕の1つに小さいほうのNGC 7752がぶら下がっているように見えます。欧州宇宙機関(ESA)によると、両銀河の相互作用によって小さなNGC 7752はいずれ広大な銀河間空間に放り出されるか、大きなNGC 7753にまるごと取り込まれると予想されています。大きな銀河が小さな銀河の手を取っているかのように見えるこの姿も、長い宇宙の歴史のなかではほんの一時のものなのです。
この画像には「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測データが用いられています。ESAによると、ハッブル宇宙望遠鏡による観測は星を形成する冷たい分子雲と若い星の関係を理解するために行われたもので、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」の観測データと組み合わせることで星形成活動の研究者に貴重なデータをもたらすとともに、2021年12月に打ち上げ予定の新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」による観測にも活かされるとのことです。
冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」、セロ・トロロ汎米天文台のブランコ4m望遠鏡に設置されている「ダークエネルギーカメラ(DECam)」、地上の望遠鏡による掃天観測プロジェクト「スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)」による観測データをもとに作成されたもので、ESAからハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚「Hubble Spies a Pair of Squabbling Galaxies」として2021年10月18日付で公開されています。
関連:見えざる強風を巻き起こす星形成活動。ハッブルが撮影した渦巻銀河「NGC 4666」
Image Credit: ESA/Hubble and NASA, Dark Energy Survey, J. Dalcanton
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏