ボローニャ大学/イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のAlessio Mucciarelliさんを筆頭とした研究グループは、天の川銀河の伴銀河である「大マゼラン雲」(LMC:Large Magellanic Cloud)において、過去に別の銀河と合体したことを示す観測的な証拠が見つかったとする研究成果を発表しました。
これまでの研究によって、天の川銀河は過去に幾つかの銀河と合体を繰り返してきたことがわかってきました。今回の成果は、大マゼラン雲のように天の川銀河より小さな銀河も他の銀河と合体することで成長してきたことを初めて示したものとされています。
■球状星団「NGC 2005」が大マゼラン雲とは別の銀河に由来する可能性この宇宙では銀河どうしの衝突・合体はめずらしいことではなく、複数の銀河が相互作用する様子は「ハッブル」宇宙望遠鏡などによって幾つも捉えられています。天の川銀河も例外ではなく、近年では欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データなどをもとに、過去に起きた天の川銀河と別の銀河の合体の歴史が明らかになりつつあります。
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では、大マゼラン雲のように天の川銀河よりも小さな銀河の場合はどうなのでしょうか。Mucciarelliさんらは今回、小さな銀河がより小さな銀河どうしの合体によって作り上げられたとする仮説を証明するために、大マゼラン雲にある球状星団のうち11個の化学組成を調べました。球状星団は、数千~数百万個の恒星が互いの重力に引き寄せられて密集している天体です。
分析の結果、11個の球状星団のうち「NGC 2005」に属する星だけが、他の球状星団の星々とは異なる化学組成を持つことが明らかになったといいます。NGC 2005は大マゼラン雲の中心から約750光年離れたところにあり、約20万個の星々が集まっています。研究グループによると、NGC 2005の星に含まれる亜鉛、銅、シリコン、カルシウムといった元素の比率が、他の10個の球状星団に属する星と比べて低いとされています。
この宇宙にはもともと水素、ヘリウム、わずかな比率のリチウムといった軽い元素しか存在しておらず、金属(水素やヘリウムよりも重い元素)は恒星の内部における核融合反応や超新星爆発のような激しい現象によって生成され、星の世代交代とともに増えていったと考えられています。そのため、星に含まれる金属の種類や比率を調べることで、その星が誕生した時期や環境を推測することができるのです。
研究グループは球状星団の化学組成をもとに、NGC 2005が今よりも小さかった大マゼラン雲と数十億年前に合体した別の銀河に由来するものであり、その銀河は星形成効率が低く、おそらく矮小楕円体銀河(dwarf spheroidal galaxy)と同程度の恒星質量があったと推測しています。研究に参加したボローニャ天体物理学・宇宙科学天文台(OAS)/フローニンゲン大学のDavide Massariさんは「天の川銀河の近隣にある小さな銀河がより小さな銀河から構築されていることを、初めて説得力を持って示すことができました」とコメントしています。
Image Credit: A. Mucciarelli / Università di Bologna / Inaf
Source: Media INAF / Astronomie.nl
文/松村武宏