アメリカ航空宇宙局(NASA)は日本時間2021年10月16日、小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」を打ち上げました。太陽系初期の情報を求めて木星トロヤ群の小惑星を史上初めて間近で探査するルーシーの旅路は素晴らしい打ち上げとともにスタートしましたが、そのいっぽうで問題も発生しています。
■12年に渡る旅路の始まり 正確な打ち上げで1回目の軌道修正は不要にルーシーを搭載したユナイテッドローンチアライアンス(ULA)の「アトラスV-401」ロケットは、予定通り日本時間10月16日18時34分にフロリダ州のケープカナベラル空軍基地第41発射施設の発射台を離床。打ち上げから約1時間後にアトラスVロケットの第2段「セントール」から切り離されたルーシーは、その約30分後に直径7.3mの巨大な太陽電池アレイ2基を展開し、バッテリーの充電が始まりました。
NASAによると、アトラスVロケットによるルーシーの軌道投入は正確に行われたため、当初予定されていた1回目の軌道修正操作「TCM-1」(TCMはTrajectory Correction Maneuverの略)は不要と判断されました。最初の軌道修正操作は12月中旬に予定されている「TCM-2」になる見込みです。
冒頭でも少し触れたように、ルーシーは2033年までの12年をかけて木星トロヤ群を含む8つの小惑星を探査するミッションです。木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点」(公転する木星の前方)付近と「L5点」(同・後方)付近に分かれて小惑星が分布しています。
木星トロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成と進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)から名付けられました。ちなみに化石のルーシーは、ビートルズの楽曲「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」にちなんで命名されています。探査対象の小惑星については以下の関連記事もご覧下さい。
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2016年からNASA科学ミッション本部副本部長を務めるThomas Zurbuchenさんは、現在の役職に就いてから数か月後に初めて承認されたミッションがルーシーだったと振り返った上で、ルーシーは謎めいたトロヤ群小惑星を学び、太陽系初期の天体形成や進化を理解する機会に恵まれていると期待を述べています。
▲ルーシーの軌道を再現したシミュレーション動画▲
色は水色が探査機、白が探査対象の小惑星、緑が地球、オレンジが木星を示す
(Credit: NASA's Scientific Visualization Studio)
打ち上げは順調に行われたルーシーですが、気になる情報が伝えられています。NASAはルーシー打ち上げ後の現地時間10月17日に、探査機の状態は安定していて動作も正常ではあるものの、2つの太陽電池アレイのうち片方が完全には展開されていない可能性を明らかにしました。
ルーシーに搭載されている円形の太陽電池アレイは打ち上げ時には畳んだ扇のような状態になっていて、打ち上げ後にゆっくりと展開する構造が採用されています。NASAによると、ルーシーのデータからは片方の太陽電池アレイが展開後に固定されたことは確認できたものの、もう片方が完全に固定されていない可能性があるといい、運用チームによるデータの分析が進められていました。
現地時間10月19日に公開されたNASAの新たな情報によると、やはり片方の太陽電池アレイが完全には展開されていない模様です。ただし、発電量は完全に展開された太陽電池アレイとほぼ同じで、探査機の状態を維持するのに十分な電力が得られているとされており、機体の回転を制御するためのスラスター噴射にも成功しているといいます。
なお、太陽電池アレイの問題解決に集中するために、4つの観測装置が搭載された架台(IPP:Instrument Pointing Platform)の展開は一時的に先送りされました。運用チームは太陽電池アレイがどの程度展開されているのかを含めて探査機の状態の調査に継続して取り組んでおり、太陽電池アレイを完全に展開させる試みは翌週末以降に計画されているとのことです。
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Image Credit: NASA/Bill Ingalls
Source: NASA
文/松村武宏