こちらは「おとめ座」の方向およそ5900万光年先にある相互作用銀河「NGC 4567」(上)と「NGC 4568」(下)です。相互作用銀河とは、互いに重力の影響を及ぼし合っている複数の銀河のこと。NGC 4567とNGC 4568は地球からは「V字」を描くように見えることから、海外では「Butterfly Galaxies(バタフライ銀河)」とも呼ばれています。
下に位置するNGC 4568の中心から右下のあたりに、白っぽい1つの光点が見えているのがわかりますでしょうか。実はこの光、天の川銀河の星が重なって見えているのではなく、NGC 4568で発生した超新星「SN 2020fqv」の輝きを捉えたものなのです。カリフォルニア大学サンタクルーズ校のSamaporn TinyanontさんやRyan Foleyさんたちは、「ハッブル」宇宙望遠鏡などを使った迅速な観測や過去の観測データの分析を通して、超新星爆発を起こした恒星に何があったのかを調べました。
SN 2020fqvは2020年3月31日午後(日本時間、以下同様)、パロマー天文台に設置されているカリフォルニア工科大学の光学観測装置「ZTF」によって発見されました。研究グループによると、4月2日未明に「II型」(※)の超新星に分類されたSN 2020fqvは、爆発から79時間後の4月3日14時36分には早くもハッブル宇宙望遠鏡の「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」による観測が始まりました。
※…Type-II、重い恒星のコアが崩壊した際の反動によって恒星の外層が吹き飛ぶと考えられていることから「コア崩壊型」や「重力崩壊型」と呼ばれる
ハッブル宇宙望遠鏡による迅速な観測が行えたことで、研究グループはSN 2020fqvを起こした恒星のすぐ近くにあった星周物質(星の近くにある物質)を調べることができました。超新星爆発に至る恒星は晩年に周囲へガスや塵を放出しますが、ハッブルによって爆発前の1年以内に放出された星周物質が観測されたことで、星が死を迎える直前に起こったことを理解できたといいます。
また、SN 2020fqvが起きたNGC 4568は、偶然にもアメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」がそのとき観測を行っていた領域に含まれており、爆発前後の明るさの変化が30分間隔で捉えられていたといいます。研究グループを率いたFoleyさんは「これまでの私たちは犯罪現場を調べる捜査官のように、星に何が起こったのかを超新星爆発が起きてから話し合ってきました。しかし今回は違います。私たちは何が起きたのかを知っていて、リアルタイムで星の死を目撃したのです」と語っています。
研究グループによると、超新星の性質と理論モデルの比較、1997年にハッブル宇宙望遠鏡が取得した過去の観測データ、それに超新星の観測で判明した酸素の量といった複数の手法を用いて爆発した恒星の質量を推定したところ、どの手法でも太陽の14~15倍の質量という結果が得られました。超新星爆発を起こした恒星の正確な質量を把握することは、大質量星がどのように生き、そしてどのように死んでいくのかを学ぶ上で重要だといいます。
超新星爆発というと、最近ではオリオン座のベテルギウスが注目されています。ベテルギウスはまだしばらく爆発しないとする研究成果が発表されているいっぽうで、Foleyさんは爆発が近いのではないかと考えているといいます。Foleyさんは、今回の研究対象となったSN 2020fqvのような観測例が積み上げられていくことで、恒星が死に至るまでの数年間に何が起きるのかをより良く理解できるようになるだろうと期待を寄せています。
なお、冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡に搭載されていた「広域惑星カメラ2(WFPC2)」による1995年2月に取得された画像と、カリフォルニア州のリック天文台で撮影された画像をもとに作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)から2021年10月21日付で公開されています。
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Image Credit: AUTHOR: NASA, ESA, Ryan Foley (UC Santa Cruz); IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI)
Source: STScI
文/松村武宏