アメリカ航空宇宙局のジェット推進研究所(NASA/JPL)は現地時間10月26日、火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」による14回目の飛行が実施されたことを明らかにしました。
NASAの火星探査ミッションは今月前半に火星の「合(ごう)」にあわせてコマンド(指令データ)の送信が一時停止されており、今回の飛行は合にともなうコマンド送信の休止期間が明けてから初の飛行となります(火星の合にともなうコマンドの送信中断について、詳しくは以下の関連記事をご覧下さい)。
関連:NASAが火星探査機・探査車へのコマンド送信を2週間停止する予定、火星の「合」に備える
IngenuityはNASAの火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」に搭載されて2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターへ着陸し、2021年4月には史上初となる地球以外の天体における航空機の制御された動力飛行に成功しました。
機体の重量は1.8kgと軽く、長さ1.2mのカーボンファイバー製ローター(二重反転式)を搭載。その上には太陽電池が備わっていて、バッテリーを充電することで飛行実験を繰り返すことが可能です。地球と火星の通信には分単位のタイムラグが生じるため、Ingenuityは事前にPerseverance経由で送信されたコマンドに従って自律的に飛行するように作られています。
▲Perseveranceが撮影したIngenuityによる3回目の飛行の様子▲
一旦撮影範囲の外に飛び去るが、戻ってきて同じ場所に着陸する様子が捉えられている
(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)
今回の飛行はローターの回転速度を毎分2700回に高めるテスト飛行のような位置付け(従来は毎分2537回)で、2021年10月24日に実施。飛行時間は23秒間と短いものでした。この間にIngenuityは高度5mまで上昇し、近くの砂紋を避けるため水平に2m移動しています。
JPLによると、ジェゼロ・クレーターでは季節の変化にともなって大気の空気密度が低くなるシーズンに入りつつあります。Ingenuityはもともと着陸から数か月間で5回のテスト飛行を行う予定だったものの、実際には着陸から8か月が経ってもミッションを続けることができています。過去の飛行時における現地の空気密度は地球の海面高度の1.2~1.5パーセント程度だったものの、今後は1.0パーセント程度まで下がる可能性があり、ローターが生み出す推力の余裕が少なくなることが予想されるといいます。
そこで、Ingenuityの運用チームはローターの回転速度を高めることで、推力の余裕を保つことを慎重に試みています。9月16日には火星表面に留まったままでローターの回転を毎分2800回まで高めることに成功。その2日後の9月18日には毎分2700回でのテスト飛行が行われる予定でしたが、ローターブレードのピッチ角(迎え角)を制御するサーボモーターの一部で異常な震動が検知されたことで自動的に中断されていました。その後、NASAの火星ミッションは合にともなうコマンド送信の休止期間に入ったため、テスト飛行の再開も休止期間の後にずれ込む形となったのです。
当初は1回、できれば3~4回の飛行成功が期待されていたというIngenuityは、火星探査における航空機運用の可能性を実証するという段階を超え、Perseveranceの探査に役立てるための画像を実際に撮影する段階に入っています。より厳しくなる条件下での飛行に挑戦するIngenuityのミッションはまだまだ続きそうです。
関連:NASA火星探査車Perseveranceが2本目の岩石サンプル採取、地下水が長期間存在した可能性も示される
Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏