地球から見た太陽の大きさを正確に知ることは非常に重要です。日食のタイミングはその測定値に左右されます。
日食は、通常は隠されている太陽の外層や月の構造、さらには一般相対性理論を研究するまたとない機会にもなります(一般相対性理論の正しさが立証されたのは日食の観測によるものです)。皆既日食が起こるタイミングを正確に予測するには、太陽の正確な半径を決定し、月に完全に覆われるタイミングを知ることが重要です。
ところが、驚いたことに、太陽半径の正確な測定値は1世紀以上も更新されていないということです。1800年代後半、Auwersという科学者が、地球から見た太陽半径の測定値を発表しました。計算に必要な値の精度が向上したにもかかわらず、この測定値は更新されず、現在でも公表されている日食の予測にはすべてこの値が使われています。
Luca Quaglia氏が率いるオーストラリア、イギリス、ギリシャ、イタリアからなる多国籍アマチュア天文学者チームは、2017年の日食時にアメリカのオレゴン州に集結しました。そこで日食の動画を撮影し、そのスペクトルと光度曲線の両方を分析することで、最新の日食時の太陽半径の値を取得しました。
太陽の大部分は水素でできていますが、他の元素も微量に含まれています。日食の際に、太陽面の圧倒的なまぶしさが遮られると、太陽の外側の淡い層から発生するこれらの元素の輝線スペクトルが見えてきます。太陽の層によって、これらの元素の含有量が異なるため、皆既日食時のスペクトルは、光球、彩層、コロナが見えてくるにつれて変化します。
研究者たちは、日食の経路の端に位置する見晴らしの良い場所から日食のビデオを撮影し、皆既日食直前と直後の数秒間、彩層が一瞬見える瞬間のスペクトルを抽出しました。このビデオから、光球のスペクトルが現れたときと消えたときを検出し、それを使って太陽が月の影に入っている時間を推定し、半径の推定に役立てています。
スペクトルを観測した後、研究チームは日食の太陽半径を計算するために別の方法を採用しました。日食中に得られた光度曲線を用いて、シミュレートされたモデルと比較します。正確な日食計算には、太陽の半径だけでなく、地球、月、太陽の中心の位置を最新の天体暦で把握し、月の表面を正しくモデル化する必要があります。
月面は滑らかな平面ではないので、太陽光は月の山や谷を通過します。これが皆既日食直前と直後に一時的に彩層が輝く原因となっています。そこで、月の地形や高さを測定する「月周回衛星レーザー高度計」のデータを用いて、月面を正確にモデル化し、彩層が現れる瞬間を正確に再現しました。
研究チームは、日食時の太陽半径の値を10分の1秒角以内で推定することができ、過去100年間に使用されてきた標準的な太陽半径の値よりもわずかに大きいことがわかりました。次回の皆既日食(2023年に予測されている西オーストラリアで観測予定)では、より解像度の高い「フラッシュスペクトル」ビデオを撮影し、推定値の精度を高めたいとしています。
こちらの動画は、2017年8月の日食で彩層が短時間見えたときに撮影された「フラッシュスペクトル」です。
Video Credit: Luca Quaglia et al. 2021
Image Credit: NASA/Aubrey Gemignani、Quaglia et al. 2021
Source: AAS NOVA / 論文
文/吉田哲郎