こちらは「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影した木星・土星・天王星・海王星の画像を一つにまとめたものです(※縮尺は統一されていません)。1990年に打ち上げられてから2021年で31周年を迎えたハッブル宇宙望遠鏡は、スペースシャトルによる5回のサービスミッションを経て今も現役で観測を続けており、天文学の発展に貢献し続けています。
これらの画像はいずれも2021年にハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」を使って撮影されたもので、太陽系の巨大な惑星たちの大気の変化を捉える「OPAL(Outer Planet Atmospheres Legacy)」プログラムのもとで取得されました。各惑星の現況とともに、ハッブルが撮影した画像を順に見てみましょう。
木星の画像は2021年9月4日に撮影されました。画像の中央付近に捉えられている木星最大の特徴「大赤斑」は、その風速が加速していることが最近の研究で明らかになりました。その大赤斑のすぐ北には、オレンジ色をした赤道帯の雲が広がっています。
欧州宇宙機関(ESA)やハッブル宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、赤道帯の従来の色は白やベージュであり、ここ数年見られるようになったオレンジ色は珍しいのだとか。研究者は赤道帯から赤みを帯びたヘイズの層が失われると予想していたものの、オレンジ色が持続していたことに驚いたといいます。
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土星の画像は2021年9月12日に撮影されました。環の上側に見える茶色い北半球の雲と、環の下側に一部が見えている青みを帯びた南半球の雲。南北の雲の色の違いが印象的です。
ESAやSTScIによると、秋を迎えた土星の北半球では雲の色が急速かつ極端な変化を示しているといいます。たとえば、土星の北極周辺では流れる雲の帯が六角形を形作っていることが知られていますが、2020年にハッブルが撮影した画像ではこの六角形が識別しづらかったものの、2021年に撮影されたこの画像では再び識別できるようになったとされています。
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天王星の画像は2021年10月25日に撮影されました。ハッブル宇宙望遠鏡は近年、北極を中心に白く巨大な雲の帽子をかぶっているような天王星の姿を捉えています。
ESAやSTScIによると、春の天王星の北半球では太陽からの紫外線がより多く吸収されるようになったことで、北極域の明るさが増しているようだといいます。研究者は大気中のメタンガス濃度の変化やヘイズのもとになる粒子の特性、それに気流のパターンから北極を覆う雲が明るくなる理由を調べています。
また、明るさは増しているものの、雲が覆う範囲に変化はみられないようです。OPALプログラムにおける過去数年間の観測でも雲の南端の緯度は43度で一定だったといい、ジェット気流が障壁として働いているのではないかと考えられています。
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海王星の画像は2021年9月7日に撮影されました。近年の海王星では白く明るい雲が出現している様子がハッブル宇宙望遠鏡によって捉えられていましたが、今年撮影された画像には明るい雲がほとんど見られず、STScIでは1989年に惑星探査機「ボイジャー2号」が撮影した画像を彷彿とさせるとしています。
画像の左上、海王星の北半球には「暗斑」が1つ見えています。STScIによるとこの暗斑は2020年にも撮影されており、通常は中緯度から赤道へ移動しながら消滅するはずなのに、何らかの理由で動きが反転して消滅しなかった暗斑と同じもののようです。また、海王星の南半球には、南極を取り囲むような暗くて細い円形の模様が現れているといいます。
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なお、ハッブル宇宙望遠鏡では今年10月下旬に搭載機器のデータ同期に関する不具合が生じ、観測機器がセーフモードに切り替わりました。運用チームは原因の特定と並行して機器の復旧作業に取り組んでいます。アメリカ航空宇宙局(NASA)によると11月7日から「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」が科学観測を再開しており、11月下旬には広視野カメラ3の復旧が試みられる予定です。
Image Credit: NASA, ESA, A. Simon (Goddard Space Flight Center), and M.H. Wong (University of California, Berkeley) and the OPAL team
Source: STScI / ESA/Hubble / NASA
文/松村武宏