こちらは南天の「カメレオン座」の方向にある反射星雲「カメレオン座赤外星雲(Chamaeleon Infrared Nebula)」です。画像を公開した米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によると、この星雲は人の目で見える可視光線だけでなく赤外線の波長の一部でも明るいことから、このように名付けられたのだといいます。
カメレオン座赤外星雲は、太陽系に比較的近い星形成領域である暗黒星雲「カメレオン座I」の中心付近にあります。画像に向かって左側にある蝶の羽のような形をした部分が特に明るく見えることから、NOIRLabでは星雲の姿を「One-Winged Butterfly(片翼の蝶)」と表現しています。
NOIRLabによると、羽の根元にあたる部分に見える暗く短い帯のようなものは星周円盤(星を取り囲むガスや塵でできた円盤状の構造)とみられており、その中心には太陽よりも軽い低質量の若い星が隠されていると考えられています。若い星は可視光線や赤外線とともに高速のガスの流れを細く絞られたジェットとして吹き出していて、このジェットが若い星を生み出した星間雲に“トンネル”を形成した結果、トンネルから漏れ出た可視光線や赤外線によって照らされた部分が反射星雲として見えているのだといいます。
また、画像中央の右側に見える小さな赤い天体は「HH 909A」と呼ばれるハービッグ・ハロー天体(Herbig-Haro)です。ハービッグ・ハロー天体は生まれたばかりの星の周囲にみられる星雲状の天体で、若い星から吹き出した高速のジェットが周囲に広がる低速のガスと衝突することで輝いたものだと考えられています。NOIRLabによると、カメレオン座赤外星雲では画像の範囲外でも若い星のジェットに沿うような場所でハービッグ・ハロー天体が見つかっているといいます。
冒頭の画像はチリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」によって撮影されたもので、NOIRLabから「Gemini Catches a One-Winged Butterfly」と題して2021年12月7日付で公開されています。
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Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA; Image processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), J. Miller (Gemini Observatory/NSF’s NOIRLab), M. Zamani (NSF’s NOIRLab) & D. de Martin (NSF’s NOIRLab)
Source: NOIRLab
文/松村武宏