日本時間2021年12月25日夜に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)・欧州宇宙機関(ESA)・カナダ宇宙庁(CSA)の宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」は、観測を行う地球と太陽のラグランジュ点「L2」を目指して飛行しつつ、機体各部の展開作業が進められています。
ウェッブ宇宙望遠鏡は初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河、太陽系外惑星の観測などで活躍することが世界中の研究者から期待されています。ウェッブ宇宙望遠鏡の運用期間は5~10年間が予定されていますが、条件次第では10年以上運用できる可能性もあるようです。
■正確な打ち上げのおかげで推進剤の残量に余裕が生じる見込みその理由は推進剤の残量です。ウェッブ宇宙望遠鏡にはスラスターの推進剤として159リットルのヒドラジン(燃料)と79.5リットルの四酸化二窒素(酸化剤)が打ち上げ前に充填されていました。推進剤はL2へ向かう際の中間軌道修正をはじめ、L2周辺に留まる軌道への投入や軌道の維持、機体の姿勢制御に用いられます。
ウェッブ宇宙望遠鏡は欧州の「アリアン5」ロケットで打ち上げられましたが、NASAやESAによると、今回のアリアン5による打ち上げの精度はウェッブ宇宙望遠鏡を所定の軌道へ投入するために求められた要件を上回っており、L2周辺の軌道へ到達するまでに消費される推進剤の量は当初の計画よりも少なくて済むことが軌道の分析によって明らかになったといいます。
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つまり、アリアン5の打ち上げが正確だったためウェッブ宇宙望遠鏡の推進剤残量に余裕が生じ、そのぶん運用期間を延長できる可能性があるというわけです。
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の軌道を説明した動画。L2を周回するような軌道を描くことがわかる】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
打ち上げの正確さは太陽電池アレイが展開されたタイミングにも現れていたといいます。NASAやESAによれば、ウェッブ宇宙望遠鏡の太陽電池アレイはあらかじめ保存されていたコマンドに従い、打ち上げから33分後、あるいは機体が太陽に対して適切な姿勢になった時点で自動的に展開されるようになっていました。
いっぽう、ウェッブ宇宙望遠鏡の実際の打ち上げではアリアン5の上段(第2段)から切り離された時点ですでに適切な姿勢になっていたため、切り離されてから約1分後、打ち上げから約29分後には太陽電池アレイを展開することができたといいます。
もちろん、推進剤に余裕があるからといって必ずしも運用期間が延長されるとは限らず、ミッションは予定通りの期間内で終了するかもしれません。今はあくまでも「10年以上の科学観測を支えるのに十分な量の推進剤が残る可能性」が示された段階となります。
なお、ウェッブ宇宙望遠鏡では現在(2022年1月4日時点)機体の温度を低温に保つためのサンシールド(日除け)の展開が進められています。表面にアルミニウムを蒸着させたカプトン(ポリマーの一種)の極薄フィルム5枚で構成されるサンシールドは機体の前後に分かれていて、主鏡・副鏡を挟み込むように折り畳まれた状態で打ち上げられました。
NASAによると、2021年12月29日には前方のUPS(Unitized Pallet Structure、5枚のフィルムやケーブルなどを含むサンシールドの前方を構成する部分)、翌12月30日には後方のUPSが所定の位置へ展開されており、執筆時点では5枚のフィルムのうち3枚の伸張作業も完了。残る2枚の伸張は1月5日に予定されているとのこと(いずれも日本時間)。soraeではサンシールドの展開作業完了後に改めてお伝えする予定です。
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Image Credit: Adriana Manrique Gutierrez, NASA Animator
Source: NASA / ESA
文/松村武宏