ロシア宇宙科学研究所のVladislav Zubkoさんを筆頭とする研究グループは、無人探査機による太陽系外縁天体「セドナ」(90377 Sedna)の接近探査に関する研究成果を発表しました。セドナは太陽から最も遠ざかる時は約1000天文単位(※)、最も近付く時でさえ約76天文単位も離れているとされる、地球から遠く離れた天体です。研究グループによると、そんなセドナへ探査機を送り込むのに条件の良いタイミングが、今から7年後の2029年に訪れるのだといいます。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、地球から太陽までの平均距離に由来
■セドナ接近探査、最良条件下の打ち上げタイミングは2029年太陽系外縁天体とは、太陽系の天体のうち海王星(太陽からの距離は約30天文単位)よりも遠くにあるものの総称です。2003年に発見されたセドナは直径約1000kmと推定されており、前述のように近日点距離が約76天文単位、遠日点距離が約1000天文単位(軌道長半径は約510天文単位)という太陽から遠く離れた楕円形の軌道を、約1万1500年周期で公転しているとみられています。
アメリカ航空宇宙局・ジェット推進研究所(NASA/JPL)の小天体データベースによると、セドナは2075年8月に近日点を通過します。別の言い方をすれば、セドナが約1万1500年ぶりに太陽へ最も近づくタイミングが、あと半世紀ほどでやってくることになります。
2015年7月にNASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」がフライバイ(接近通過)探査を行った準惑星「冥王星」は、太陽から約29.5~49.3天文単位離れた軌道を公転しています。近日点距離でさえ冥王星に比べればざっと2倍前後も遠いとはいえ、セドナに探査機を送り込んでその様子を直接観測するチャンスが、そう遠くないうちに巡ってくるわけです。
研究グループは今回、探査ミッションが2029年~2037年に始まると仮定して、セドナに探査機を送り込むことができる現実的で最良のタイミングを調査しました。なお、セドナを周回する軌道へ探査機を投入するためには大量の推進剤を搭載しなければならなくなるため、今回の研究ではニュー・ホライズンズによる冥王星探査と同様に一度限りのフライバイ探査が想定されています。
発表によると、最良の条件下で打ち上げ可能なタイミングは2029年。同年10月に打ち上げられた探査機は金星・地球・木星の重力を利用したスイングバイ(天体の重力を利用した軌道変更)で軌道を修正し、2059年10月にセドナへ到達します(飛行期間を30年とした場合)。
研究グループによると、2029年の他に2031年や2034年の打ち上げでも惑星を利用したスイングバイを行いやすく、タイミングが良いようです。研究内容を紹介したロシアの宇宙機関ロスコスモスによると、条件次第ではセドナ到達までの最短飛行期間を2029年打ち上げのケースでは18年未満、2031年打ち上げのケースでは26年、2034年打ち上げのケースでは23年まで短縮することも可能とされています。
スイングバイを行う際には惑星を観測する機会も得られますが、2034年打ち上げのケースでは海王星スイングバイを挟むことで、1989年の「ボイジャー2号」以来となる海王星の接近探査もできるといいます。また、探査機は火星と木星の間にある小惑星帯を横切る際に比較的サイズが大きな小惑星の近くを通過するといい、2029年打ち上げのケースでは小惑星「マッサリア」(20 Massalia)、2034年打ち上げのケースでは小惑星「プシケ」(16 Psyche)の接近探査も可能とされています。
海王星よりも外側を公転するセドナのような天体は、太陽系初期の様子を伝える始原的な天体だと考えられています。ただ、これらの天体は地球から遠いために観測するのが難しく、冥王星以外で接近探査されたのは、2019年1月にニュー・ホライズンズがフライバイ探査を行ったエッジワース・カイパーベルト天体(海王星軌道の外側で円盤状に分布する小天体)の「アロコス」(486958 Arrokoth)のみです。
今回の研究はセドナに探査機を送り込むための現実的なタイミングを調査したものであり、具体的な探査ミッションが立案されたわけではありませんが、もしもセドナの接近探査が実施されれば、太陽系の形成や初期の姿に関する理解がより深まることになるはずです。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: Roscosmos
文/松村武宏