アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)は現地時間1月24日、新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」が太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」に到着したことを発表しました。
2021年のクリスマスに地球を旅立ったウェッブ宇宙望遠鏡は、打ち上げ時に折り畳まれていた機体各部の展開をすでに終えており、L2に到着したことで観測開始への下準備が整ったことになります。期待の新型望遠鏡による観測は2022年夏頃に始まる予定です。
■1か月間の旅路を終えて太陽-地球のラグランジュ点「L2」に到着2021年12月25日21時20分(日本時間、以下特記なき限り同様)に欧州の「アリアン5」ロケットで打ち上げられたジェイムズ・ウェッブは、初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河、太陽系外惑星の観測などで活躍することが世界中の研究者から期待されている、アメリカ航空宇宙局(NASA)・欧州宇宙機関(ESA)・カナダ宇宙庁(CSA)の新しい宇宙望遠鏡です。
ウェッブ宇宙望遠鏡は地球と太陽の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のひとつ「L2」(地球からの距離は約150万km)まで1か月ほどかけて移動し、機器の冷却や較正を終えた後(打ち上げから約6か月後)に観測を開始する予定です。
L2に到着したウェッブ宇宙望遠鏡からは太陽と地球が常にサンシールド(日除け)の日なた側に見えるようになり、主鏡や観測機器が集中配置されているサンシールドの日かげ側は太陽光から保護されます。NASAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡の日なた側の温度は摂氏85度ですが、日かげ側の温度は摂氏マイナス233度という低温が維持されるといいます。
【▲ ウェッブ宇宙望遠鏡の軌道を説明した動画。L2を大きく周回するような軌道を描くことがわかる】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
135億年以上前の初期宇宙に存在していた天体、その赤外線を捉えることを目指すウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡は、表面が金でコーティングされたベリリウム製の六角形セグメント18枚で構成されています。前述のように主鏡の直径は6.5mで、「ハッブル」宇宙望遠鏡の直径2.4mの主鏡より3倍近くも大きく、そのままではアリアン5のフェアリング(※)に収まりません。
※…ロケットの先端にある人工衛星や探査機などを搭載する部分、アリアン5のフェアリングは直径5m
そこで、主鏡や太陽光を遮るサンシールドなどウェッブ宇宙望遠鏡の各部分は、一旦折り畳んだ状態で打ち上げた後に宇宙空間で展開する構造が採用されています。機体各部の展開は2021年12月29日に広大なサンシールドから着手され、2022年1月9日には主鏡の展開まですべて無事に完了。1か月間に渡るウェッブ宇宙望遠鏡の旅路も、あとはL2への到着のみとなっていました。
関連
・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の「日除け」展開作業が無事完了!
・新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」主鏡の展開作業も無事成功!
NASAによると、L2へ到着するための3回目の中間軌道修正(※)は日本時間2022年1月25日4時に開始。5分弱(297秒)のエンジン噴射によってウェッブ宇宙望遠鏡は秒速1.6m加速され、L2を周回するように見える軌道(ハロー軌道)へと入ることに成功しました。
※…MCC2、MCCはMid Course Correctionの略。1回目のMCC1aは2021年12月26日、2回目のMCC1bは同年12月28日に実施済み
NASAによると、ピンポイントにL2に留まる軌道と比べて、L2を周回する軌道にはより維持しやすいというメリットがあります。また、太陽電池アレイを用いた発電や機体の熱安定性を保つためにも、太陽が地球に隠されることがない軌道を周回することが求められるといいます。
NASAのビル・ネルソン長官は、ウェッブ宇宙望遠鏡のL2到着を受けて「ウェッブ、おかえり!(Webb, welcome home!)」とコメント。L2までの旅路を支えた運用チームへの祝辞を述べるとともに、ウェッブ宇宙望遠鏡が新たな宇宙の眺めをもたらす今夏が待ちきれないと語っています。
ついに運用軌道へ到着したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が見せてくれる宇宙の姿、soraeも心から楽しみにしています!
関連:次世代宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」10年以上運用できる可能性
Image Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez
Source: NASA / ESA
文/松村武宏