ビクトリア大学の天文学者Ruobing Dong博士を筆頭とする研究グループは、「おおいぬ座」の方向およそ3700光年先にある若い連星系「おおいぬ座Z星」(Z Canis Majoris、Z CMa)を観測したところ、別の天体がこの連星の近くを通過したために生じたとみられる痕跡が見つかったとする研究成果を発表しました。今回の成果は、太陽系の歴史をより良く理解することにもつながると期待されています。
■星系外部から飛来した天体が原始惑星系円盤を大きく乱した可能性研究グループによると、おおいぬ座Z星は誕生から100万年程度しか経っていない前主系列星(主系列星へと進化している若い星)の段階にある星で、ガスや塵でできた原始惑星系円盤に囲まれています。原始惑星系円盤は、塵が集まって成長を繰り返すことで惑星が形成されると考えられている場所です。
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国立天文台によると、同天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」などを用いた過去の観測において、おおいぬ座Z星の原始惑星系円盤から伸びる「尾」のような構造が観測されていたといいます。今回、研究グループがチリの「アルマ望遠鏡(ALMA)」やアメリカの「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」を使っておおいぬ座Z星を観測した結果、この「尾」の先にあたる連星から約5000天文単位(※)離れた位置に新たな天体が見つかりました。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来
新たに見つかった天体について研究グループは、おおいぬ座Z星をフライバイ(接近通過)した星系外部からの「訪問者」ではないかと考えています。研究に参加したグルノーブル・アルプ大学の天体物理学者Nicolás Cuelloさんによると、周囲に円盤を持つ天体と別の天体が遭遇した際には、円盤に渦、歪み、隙間といった痕跡が生じるといいます。「おおいぬ座Z星の円盤を注意深く観察することで、私たちはフライバイによる複数の痕跡を明らかにしました」(Cuelloさん)
研究グループが発見した痕跡は外部から飛来した天体の存在を検証するだけでなく、おおいぬ座Z星やその原始惑星系円盤で誕生する惑星の未来にとって、このフライバイが何を意味するのかを考えるきっかけにもなったといいます。
前述のように、おおいぬ座Z星の原始惑星系円盤では「尾」のような構造が確認されていますが、今回の研究では天体のフライバイが惑星誕生の現場である原始惑星系円盤に大きな影響を与える可能性が示されたことになります。Cuelloさんは「おおいぬ座Z星で形成された長い『尾』のように、フライバイ現象は星周円盤(※星を取り囲むガスや塵でできた円盤状の構造)を激しくかき乱す可能性があるのです」と語ります。
また、おおいぬ座Z星では爆発的な増光現象が起きることが知られています。この増光は原始惑星系円盤から中心の星へとガスが突発的に降り積もることで生じると考えられていますが、この現象も飛来した天体が円盤を乱すことで促進されている可能性があるようです。
研究を率いたDongさんは、天の川銀河全体における若い星系の進化と成長を研究することは、太陽系の起源についての理解をより深める上で役立つと指摘。「新しく形成された星系でこのような現象が起こるのを見ることで、『ああ、これは私たちの太陽系でずっと昔に起こったことかもしれない』と言うのに必要な情報を得ることができるのです」とコメントしています。
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Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)
Source: NRAO / 国立天文台
文/松村武宏