東京大学は2月3日、東京大学大学院理学系研究科の廣瀬敬教授、横尾舜平(博士課程学生)さんなどを中心とする研究チームが「なぜ、火星が磁場を失い、海を失ってしまったのか」について新しいシナリオを提唱したと発表しました。
40億年ほど前の火星には強い磁場があったことが解っています。しかし、その後、この磁場は失われてしまいました。そのため、火星は、太陽風によって大気を剥ぎ取られ、海も失ってしまいました。
では、なぜ、火星は磁場を失ってしまったのでしょうか?
これまで火星のコアは火星隕石の研究から鉄を主成分に大量の硫黄を含んでいると考えられてきました。ところが、NASAの火星探査機インサイトによる地震波のデータの分析から、火星のコアは、硫黄以外にも、軽い元素を含んでいることが解りました。
その軽い元素の有力な候補の1つが水素です。水素は高圧下で鉄に取り込まれやすい性質を持っているためです。なお、この水素は水(H2O)という形で雪線(宇宙空間で水が氷として存在できる境界線)の外側からやってきた可能性が高いと考えられるそうです。
以上を踏まえて、研究チームは、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル(LH-DAC)などの実験装置を使って、実験を行いました。LH-DACを使った超高圧高温発生技術においては研究チームは世界をリードしています。
すると、溶けた鉄・硫黄・水素合金は温度が下がると、硫黄に富む液体と水素に富む液体に分離することが解りました。
このことから、研究チームは、なぜ火星が磁場を失ったのかについて次のようなシナリオを描きました。
火星が形成された時、火星のコアは高温で硫黄に富む液体と水素に富む液体が均一に混じり合っていました。しかし、時間が経ち、コアの温度が下がると、硫黄に富む液体と水素に富む液体が分離し、重い液体は底に溜まり、軽い液体は上部に上昇して、対流を促進しました。この促進された対流によって磁場が発生しました。
ところが、さらに冷却が進むと、さらに分離が進み、重い液体と軽い液体が安定的な層を形成しました。こうなると逆に、対流が妨げられてしまいます。こうして、対流が抑制され、火星の磁場は失われてしまったというわけです。
研究チームでは今後、インサイトのデータを使って、火星のコアに本当に水素が含まれているか、重い液体が本当にコアの深い部分に存在しているか、など確認できれば、このシナリオを検証していくことができると期待しています。
Source
Image Credit: 東京大学/NASA 東京大学 - 火星コア中で液体金属が分離する 〜火星磁場の消失と海の蒸発の原因解明へ〜文/飯銅重幸(はんどうしげゆき)