こちらは「カシオペヤ座」の方向およそ1万1000光年先にある超新星残骸「カシオペヤ座A」(Cassiopeia A)をX線で観測した画像(疑似カラー)です。
カシオペヤ座は北極星を探す時の目安になるW字型をしたおなじみの星座なので、ご存じの方も多いでしょう。超新星残骸とは重い恒星が超新星爆発を起こした後に観測される天体のことで、衝撃波に加熱されたガスが可視光線やX線などで輝いています。
画像には1999年7月に打ち上げられて以来活躍を続けているアメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「Chandra(チャンドラ)」と、日本時間2021年12月9日に打ち上げられたばかりのX線偏光観測衛星「IXPE」(Imaging X-Ray Polarimetry Explorer)から送られてきた最初の科学観測データが用いられています。色は青がチャンドラの観測データ、マゼンタ(赤紫)がIXPEの観測データに対応しています。
可視光線やX線といった電磁波は、空間を「波」として伝わります。太陽光などの自然光や電球から発せられるような光は、様々な方向に振動する波が入り混じっています。ところが、天体から地球に届く電磁波の波は特定の方向に偏って振動していることがあります。偏光とはこのように「波の振動方向が偏っている電磁波」を指す言葉です。偏光の性質は、身近なところでは反射光を軽減する「偏光サングラス」などで利用されています。
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今回初めて科学観測画像を取得したIXPEはアメリカやイタリアを中心とした国際プロジェクトで、日本の理化学研究所などからも装置が提供されています。偏光には光が発せられた環境の手掛かりが含まれていますが、理化学研究所によれば天体のX線偏光は観測例が極めて少ないといいます。NASAによると、直径10光年に渡るカシオペヤ座Aの全体でX線偏光の量がどのように変化しているのかを、研究者たちはIXPEを用いることで初めて知ることができるようになったといいます。
現在、IXPEの観測データを元にカシオペヤ座AのX線偏光マップ作成が進められており、カシオペヤ座AでのX線生成に関する新たな手掛かりが明らかになると予想されています。X線偏光を感度良く捉えるIXPEの観測によって、ブラックホール周辺や強い磁場を持つ中性子星周辺の環境などについての、これまでとは質が異なるデータが得られると期待されています。
なお、カシオペヤ座Aは20年以上前に打ち上げられたチャンドラが初めて画像を取得し、その後も観測を続けている天体でもあります。チャンドラの観測によって、カシオペヤ座Aの中心にはブラックホールもしくは中性子星とみられる天体が存在することが明らかになりました。
IXPEの主任研究員を務めるNASAマーシャル宇宙飛行センターのMartin C. Weisskopfさんは「IXPEが捉えたカシオペヤ座Aの画像は、チャンドラの画像と同じくらい歴史的なものです」とコメント。IXPEのイタリア側の主任研究員を務めるイタリア国立天体物理学研究所(INAF)のPaolo Soffittaさんは「IXPEによるカシオペヤ座Aの画像は大変美しいものです。この超新星残骸をさらに学ぶための偏光観測データ分析が楽しみです」とコメントしています。
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Image Credit: NASA/CXC/SAO/IXPE NASA - NASA’s IXPE Sends First Science Image 理化学研究所 - ブラックホールを観測する新しい手段の開拓-X線偏光観測衛星 IXPE の打ち上げ-文/松村武宏