木星の衛星エウロパは、17世紀にガリレオ・ガリレイが発見した「ガリレオ衛星」(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)の一つです。エウロパの表面は氷に覆われていますが、氷の外殻とその内側にある岩石層に挟まれるようにして広大な内部海が存在すると考えられており、そこでは生命が誕生・生息している可能性もあるとして注目されています。
現在、アメリカ航空宇宙局(NASA)では無人探査機「Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)」によるエウロパの探査ミッションを計画しています。エウロパ・クリッパーは木星を周回しつつ、エウロパに40~50回接近してその上空を通過しながら観測を行うことで、最終的にエウロパの全体をカバーすることが計画されています。2024年に予定されている打ち上げに向けていよいよ同探査機の組み立てが始まったことを、NASAのジェット推進研究所(JPL)が現地時間3月3日付で伝えています。
エウロパ・クリッパーは、本体である高さ3mの推進モジュールに折り畳み式の太陽電池アレイ2枚を備えており、太陽電池アレイ展開後の幅は約30mに達します。搭載される科学観測機器はカメラ、分光器、レーダー、磁力計など合計10台で、観測データは直径3mの高利得アンテナを使って地球に送信されます。JPLによると、現在全米および欧州の各地から機械部品や科学機器が続々とJPLに到着しており、2022年末までに大半のハードウェアの組み立てが完了すると見込まれています。
組み立てが行われるJPLのクリーンルームには、サウスウエスト研究所(SwRI)が開発した紫外線分光器「Europa-UVS」がすでに到着しています。Europa-UVSは紫外線の波長でエウロパの希薄な大気や表面の分光観測(※)を行うための科学装置で、エウロパに内部海はあるのか、探査機によるサンプル採取が可能な宇宙空間に内部海の水は噴出しているのか、エウロパの表面には氷以外にどのような物質があるのか……といった疑問の答えに結びつく観測データを得ることが期待されています。
※…対象のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る観測方法のこと
また、推進モジュールや高利得アンテナも間もなくJPLに送られる予定です。探査機の中核となる推進モジュールや地球との通信に用いられる高利得アンテナは、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)が開発を行いました。
それぞれの機器はJPLに到着すると探査機に統合されて、探査機のフライトコンピューター等との間で通信できるかどうかがエンジニアによってチェックされます。全ての構成要素が揃って完成した探査機は、過酷な深宇宙の環境を模した熱真空試験や、打ち上げ時の振動に耐えられることを確認する振動試験を受けることになります。
エウロパ・クリッパーはスペースXの「ファルコン9」ロケットによって2024年10月に打ち上げられ、2030年に木星へ到着する予定です。ミッションが順調に進めば、木星到着は今から8年後。生命存在の可能性も注目されるエウロパのより詳細な情報が得られる日が、今から待ち遠しく感じられます。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech, Johns Hopkins APL NASA/JPL - NASA Begins Assembly of Europa Clipper Spacecraft NASA - NASA's Europa Clipper文/松村武宏