欧州宇宙機関(ESA)は現地時間3月17日、パリでESAの閣僚級理事会が開催されたことを受けて声明を発表しました。ESAは2022年9月にロシアと共同で実施している火星探査ミッション「エクソマーズ」2回目の打ち上げを予定していたものの、2022年の打ち上げは正式に中止されることになりました。
「エクソマーズ2022」として今年打ち上げ予定だったのは、欧州の探査車「ロザリンド・フランクリン」と、ロシアの着陸機「カザチョク」です。ロザリンド・フランクリンは火星の表面下最大2mの深さからサンプルを採取して、生命の痕跡を探すことを目的に開発されました。カザチョクはロザリンド・フランクリンを載せて火星表面に着陸し、その後は着陸地点での定点観測を行います。
ロシアの「プロトン」ロケットで打ち上げられたロザリンド・フランクリンとカザチョクは、火星のオキシア平原に着陸します。オキシア平原ではかつて水が流れていて、生命の痕跡が粘土や堆積物によって放射線や酸化作用から守られてきた可能性があると考えられています。ロザリンド・フランクリンとカザチョクは2022年9月に打ち上げられて、2023年6月に火星へ到着する予定でした。
しかし、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、宇宙開発・宇宙探査の分野にも大きな影響を及ぼしています。ESAは今回の声明にて「欧州の価値観を尊重しつつ宇宙計画の立案・実行を義務付けられた政府間組織として、私たちはウクライナへの攻撃による人的被害や悲劇的な結果を深く悲しんでいます」と言及。閣僚級理事会ではロシアの国営宇宙企業ロスコスモスとの継続的な協力の下で2022年のエクソマーズ打ち上げを実行するのは不可能であることが全会一致で確認されるとともに、協力活動の中断に向けて適切な措置を講じることがESAのジョセフ・アッシュバッハー長官に命じられました。
また、閣僚級理事会ではアッシュバッハー長官に対し、ロザリンド・フランクリンのミッションを遂行するための方法として利用可能な選択肢について、その明確化に向けた調査の実行が承認されました。これはつまり、ロザリンド・フランクリンをプロトンロケットやカザチョクを用いずに火星へ着陸させるための代替策が検討されることを意味します。
海外メディアのSpaceNewsはアッシュバッハー長官の「我々が本当にしなければならないのは、これらの選択肢を検討することです」という言葉を伝えています。アッシュバッハー長官はアメリカ航空宇宙局(NASA)との新たな協力を選択肢の一つにあげていますが、欧州単独での実施や他のパートナーとの協力体制も選択肢として検討される模様です。いっぽう、ESAの有人およびロボット探査(human and robotic exploration)部門の責任者を務めるデビッド・パーカーさんは、関係改善が実現すれば2024年以降にロスコスモスと共同実施できる可能性に言及しています。
なお、現在ロザリンド・フランクリンと命名されている欧州の火星探査車は一時期NASAとの共同ミッションで打ち上げられることが計画されていましたが、2012年にNASAがESAとの共同ミッションから撤退したことでロシアとの共同ミッションに移行したという経緯があります。
このほかにも今回の声明では、ギアナ宇宙センター(フランス領ギアナ)からの「ソユーズ」ロケット打ち上げについても触れられています。ロスコスモスが人員を撤退させる決定を下したことで、ギアナ宇宙センターでのソユーズ打ち上げはすべて保留されています。ソユーズは欧州の測位システム「ガリレオ」の衛星打ち上げに用いられていたり、2023年に予定されているESAの赤外線宇宙望遠鏡「ユークリッド」の打ち上げにも用いられる予定であったりするなど影響が大きいことから、開発中の新型ロケット「アリアン6」も含む代替策の検討が進められている模様です。
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Image Credit: ESA/ATG medialab ESA - ExoMars suspended SpaceNews - ESA suspends work with Russia on ExoMars mission文/松村武宏