アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間3月21日、NASAの太陽系外惑星アーカイブ(NASA Exoplanet Archive)に登録されている確認済み系外惑星の数が5005個になったことを明らかにしました。人類が系外惑星を初めて発見してから今年で30年、既知の系外惑星の数がついに5000個を突破したことになります。
■5005個の系外惑星はその一つ一つが未知の世界【▲ 動画「5,000 Exoplanets: Listen to the Sounds of Discovery (NASA Data Sonification)」】
(Credit: NASA/JPL-Caltech/M. Russo, A. Santaguida (SYSTEM Sounds))
まずはNASAが公開したこちらの動画をご覧下さい。これは、1992年から2022年3月までに確認された5005個すべての系外惑星について、その天球上における位置などを時系列順に示した作品です。未知の惑星を探し続けた人類の30年に渡る観測の歴史とその成果が、長さ80秒ほどの動画に凝縮されています。
この動画では、各系外惑星の情報を円記号と音色で表現しています。背景に使われているのは、天の川銀河の中心方向を画像の中心に据えた全天の星空です。円の位置は地球から見た系外惑星の位置、円の大きさは相対的な公転軌道の大きさ、音の高低は公転周期の長さ(高いほど短く、低いほど長い)、そして円の色はどのような観測手法で発見されたのかを示しています。
NASA系外惑星科学研究所(Exoplanet Science Institute)の天体物理学者Jessie Christiansen(ジェシー・クリスチャンセン)さんは「それはただの数字ではなく、それぞれが新しい世界、真新しい惑星なのです。私はその一つ一つにワクワクさせられます、これらの惑星について私たちは何も知らないからです」と語ります。ChristiansenさんはNASAの系外惑星アーカイブで科学リーダーを務めています。
この30年間に見つかった系外惑星のなかには、太陽系の8つの惑星とは大きく異なる特徴を持ったものも数多く含まれています。その代表例は、木星サイズの巨大ガス惑星であるにもかかわらず、親星のすぐ近くを公転している「ホットジュピター」と呼ばれるタイプの系外惑星です。ホットジュピターのなかには「KELT-9b」のように、表面が一部の恒星よりも高い温度まで加熱されているとみられるものも存在しています。
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そのいっぽうで、親星の周囲に広がるハビタブルゾーン(惑星の表面に液体の水が存在し得る範囲)を公転しているとみられる地球サイズの系外惑星も少なからず見つかっています。2022年夏からの科学観測開始に向けて調整が進められている宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」をはじめ、近い将来登場する地上や宇宙の望遠鏡によって、このような系外惑星の大気から生命の存在を示す分子などの兆候が見つかるかもしれません。
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天文学者のAlexander Wolszczan(アレクサンデル・ヴォルシュチャン)さんは「ある種の生命、おそらく原始的な何かがどこかで見つかるのは必然的なことだと私は考えています」と語っています。Wolszczanさんは1992年にパルサーを公転する系外惑星(後述)を発見した研究グループを率いた人物です。
■始まりは1992年に見つかった2つの系外惑星だった動画で最初に出現する中央右上の円記号は、1992年に「おとめ座」の方向約2000光年先にあるパルサー「PSR B1257+12」で史上初めて発見された2つの系外惑星を示しています。このパルサーでは1994年にも3個目の系外惑星が見つかりました。最初に見つかった系外惑星「PSR B1257+12 c」「PSR B1257+12 d」の質量は地球の4倍前後、その後に見つかった「PSR B1257+12 b」の質量は地球の約0.02倍と推定されています。
パルサーは高速で自転する中性子星の一種で、自転にともなって規則正しいパルス状の電磁波が観測されるという特徴があります。もしもパルサーを系外惑星が公転している場合、惑星の重力による影響を受けて、パルスのタイミングにズレが生じることがあります。PSR B1257+12で見つかった3つの系外惑星は、このズレをもとに系外惑星を検出する「パルサータイミング法」という手法を用いて発見されました。
ただ、中性子星は重い恒星が超新星爆発を起こした後に残されると考えられている天体です。PSR B1257+12を公転する惑星は、超新星の後に……別の言い方をすれば“恒星の死後”に形成されたと考えられています。私たちが住む地球のように、核融合反応のエネルギーで輝く“生きた恒星”を公転する系外惑星は、この時点ではまだ見つかっていませんでした。
動画が1995年に進むと、中央左下に1つの円記号が現れます。これは「ペガスス座」の方向約50光年先にある系外惑星「ペガスス座51番星b」を示しています。ペガスス座51番星bの質量は木星の約0.46倍以上と推定されています。
太陽に似た恒星「ペガスス座51番星」を公転しているペガスス座51番星bは、史上初めて見つかった「恒星を公転する系外惑星」として知られています。この系外惑星を発見したミシェル・マイヨール(Michel Mayor)さんとディディエ・ケロー(Didier Queloz)さんは、2019年にノーベル物理学賞を受賞しました。
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ペガスス座51番星bは「視線速度法」(またはドップラーシフト法)を用いて検出されました。視線速度法とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる親星の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。
惑星の公転にともなって親星が揺れ動くと、光の色は親星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした親星の色の変化は、天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出されています。視線速度法の観測データからは系外惑星の公転周期に加えて、系外惑星の最小質量を求めることができます。
【▲ 系外惑星の公転にともなって親星のスペクトルが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)
ペガスス座51番星bの発見以降、系外惑星は主に視線速度法を使って見つかってきました。NASAが公開した動画を見ると、2000年頃を境に、視線速度法を用いて発見されたことを示すピンク色の円記号が全天のあちこちで増えていることがわかります。
ところが、2011年頃からは中央左側に「トランジット法」という手法で見つかったことを示す青紫色の円記号が現れ始め、天空の一部に角張ったクローバーのような領域が描き出されるようになります。これは、2009年にNASAが打ち上げた宇宙望遠鏡「ケプラー」による成果です。
トランジット法とは、系外惑星が親星の手前を横切る「トランジット(transit)」を利用した観測手法です。系外惑星のトランジットを地球から観測すると、系外惑星によって親星の一部が隠されることで、親星の明るさにはごくわずかな変化が生じます。この明るさの変化を精密に捉えることで、系外惑星を間接的に検出することができるのです。
繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。また、トランジット時の親星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。
このトランジット法を用いて系外惑星を発見するために開発されたケプラー宇宙望遠鏡は、2018年10月に運用を終えるまでの間に53万個以上の恒星を対象に観測を行い、実に2600個以上もの系外惑星発見に貢献しました。
【▲ 系外惑星のトランジットにともなう親星の明るさの変化を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)
NASAは現在、2018年4月に打ち上げられた系外惑星探査衛星「TESS」(Transiting Exoplanet Survey Satellite)の運用を続けています。TESSもまたトランジット法を利用して系外惑星を検出するために開発された宇宙望遠鏡ですが、ケプラーが天空の一部を集中して観測するために作られたのに対し、TESSは最初から全天を対象とした観測を実施しています。
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NASAの系外惑星アーカイブによれば、TESSが検出して確認が待たれている系外惑星候補の数は5459個(2022年3月18日時点)に達しています。NASAは2027年の打ち上げを目指す宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン」でも系外惑星の探査を行う予定で、系外惑星は今後も続々と見つかることになりそうです。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech NASA/JPL - Cosmic Milestone: NASA Confirms 5,000 Exoplanets NASA - Kepler's legacy: discoveries and more NASA Exoplanet Archive文/松村武宏