アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間3月18日、火星探査ミッション「Mars 2020(マーズ2020)」の探査車(ローバー)「Perseverance(パーセベランス、パーシビアランス)」が、クレーターの西部に広がる三角州に向けて移動を開始したことを明らかにしました。
2020年7月にケープカナベラル空軍基地から打ち上げられたPerseveranceは、2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターへ着陸することに成功。その後はクレーター内で岩石サンプル採取などの探査活動を行っています。
現在、NASAと欧州宇宙機関(ESA)は、火星の岩石サンプルを地球へ持ち帰るための一連のミッションを共同で計画・実施しています。このサンプルリターンミッションは「火星でのサンプル採取」「サンプル回収&火星からの打ち上げ」「地球へのサンプル輸送」という三段階に分かれています。マーズ2020は、三段階の最初にあたるサンプル採取の役割を担うミッションです。
Perseveranceはこれまでに8本の岩石サンプル採取に成功しており、最終的には30本ほどが採取される予定です。採取されたサンプルは、早ければ2030年代初頭にも地球へ届けられることになります。
関連:NASA「火星から打ち上げる小型ロケット」の製造契約をロッキード・マーティンと締結
Perseveranceは2021年2月の着陸後に南西方面へ移動してサンプル採取を行っていましたが、着陸地点の北西に広がる高さ40m以上の三角州へ向かうべく、一旦着陸地点付近に戻っていました。ジェゼロ・クレーターの三角州は、古代の火星に生息していたかもしれない微生物の証拠を探すのに適していると考えられています。
【▲ 三角州に向かうPerseveranceの走行予定ルートを示した動画】
(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS/University of Arizona)
三角州への旅は現地時間3月14日に始まりました。Perseveranceは真っ直ぐ三角州に向かうのではなく、着陸地点と三角州の間に広がる「Seitah」と名付けられたエリアを反時計回りに迂回しながら進みます。NASAによれば三角州の麓に到着するまでの走行距離は約5kmで、移動には約1か月間を要すると見込まれています。
地球と火星の通信には分単位のタイムラグが生じるので、Perseveranceは自律的に走行します。その自動運転システムは「キュリオシティ」をはじめとした過去の火星探査車よりも高速化されていて、大きな岩や斜面といった走行の妨げになる障害物をリアルタイムで認識・回避することができます。とはいえ人間が完全に要らなくなったわけではなく、基本的な走行ルートの立案などは人の手で行われています。
なお、現地時間3月15日には、Perseveranceに搭載されて火星へ運ばれた小型ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」のミッションが2022年9月まで延長されることも発表されました。IngenuityはPerseveranceが回避するSeitahを何回かに分けて横断飛行し、その後はPerseveranceを支援するために三角州の偵察飛行を行う予定です。
NASAによれば、三角州に到着したIngenuityの最初の任務は、Perseveranceが三角州に登るためのルートを選定する上で助けとなる情報を得ることとされています。また、Perseveranceの探査目標の評価、走行可能範囲から遠く離れた地形の撮影、さらには今後の火星サンプルリターンミッションにおける着陸候補地点の偵察などでも、Ingenuityのデータが役立てられるとのことです。
関連:2021年に新たなる火星探査の幕を開けた「Ingenuity」と「Perseverance」
Source
Image Credit: NASA/JPL-Caltech NASA/JPL - NASA's Perseverance Rover Hightails It to Martian Delta NASA/JPL - NASA Extends Ingenuity Helicopter Mission文/松村武宏