テキサス大学オースティン校のMarc Hesse教授を筆頭とする研究グループは、木星の衛星エウロパの内部海における酸素についての研究成果を発表しました。エウロパは氷の外殻の下に内部海が存在するのではないかと予想されている天体のひとつです。研究グループによると、エウロパの内部海には最大で地球の海水に匹敵するレベルの酸素が溶け込んでいる可能性もあるといいます。
■エウロパでは塩水が表面から内部海へと酸素を運び込んでいる可能性エウロパは17世紀にガリレオ・ガリレイが発見した「ガリレオ衛星」と呼ばれる4つの衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)のひとつです。地球の月に次いで古くから知られていた衛星のひとつであるエウロパは、近年、生命が存在するかもしれない天体のひとつとして注目を集めています。
注目される理由は「海」と「酸素」です。エウロパの表面は氷の外殻に覆われていますが、その内側にある岩石層との間には、液体の水でできた内部海が存在するのではないかと考えられています。内部海の水は木星や他の衛星との相互作用による潮汐加熱が熱源となることで液体の状態が保たれていると考えられていて、今も海底で火山活動が続いている可能性も指摘されています。
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また、地球表面の大気圧と比べて10億分の1と希薄ながらも、エウロパには酸素を主成分とした大気が存在しています。この大気は宇宙空間から飛来する荷電粒子がエウロパの表面へ衝突した際に、酸素が氷から弾き出される(スパッタリング)ことで生成されていると考えられています。
しかし、エウロパの希薄な大気と存在が予想される内部海は、分厚い外殻によって隔てられています。もしも酸素が外殻を通り抜けて内部海に到達するメカニズムが存在すれば、内部海で誕生した生命は地球のように酸素を利用することができるかもしれません。
研究グループは、エウロパ表面の約4分の1を覆う「カオス」と呼ばれる地形に注目しました。カオス地形は亀裂、尾根、そして流氷のようにブロック化した氷で構成されています。この地形は外殻の一部が崩壊したことで形成されたとみられていて、その下では氷の一部が溶けて液体の塩水が生成されていると考えられています。
発表によると、この塩水がエウロパの表層から内部へと酸素を運び込んでいる可能性が、過去の研究にて指摘されていたといいます。今回、研究グループは物理ベースのシミュレーションモデルを構築し、塩水がエウロパの内部へ酸素を運び込むことができるかどうかを分析しました。
研究グループが得た答えは「イエス」でした。シミュレーションの結果、カオス地形の形成中に生成されて酸素を取り込んだ塩水は、再凍結する前に下方の氷を浸透して排出される可能性が示されたといいます。塩水に取り込まれた酸素のうち、内部海に到達するのは86パーセントと算出されています。
こうして内部海に輸送される酸素の量は、カオス地形の分布やエウロパ表面の年齢をもとに、毎秒0.002~13.2kgと推定されています。仮に推定値の最大量が輸送されていた場合、エウロパの内部海には地球の海に匹敵するレベルの酸素が溶け込んでいる可能性もあるといいます。
なお、アメリカ航空宇宙局(NASA)はエウロパの観測を目的とした探査機「エウロパ・クリッパー」の打ち上げを2024年に予定しており、現在NASAのジェット推進研究所(JPL)で組み立てが進められています。
研究グループは、内部海に溶け込んでいる酸素などの量をより正確に推定する上で、エウロパ・クリッパーの観測データが役立つかもしれないと期待を寄せています。研究に参加したJPLの宇宙生物学/地球物理学者Steven Vanceさんは「氷の下に生息する一種の好気性生物について考えるのは魅力的なことです」とコメントしています。
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Source
Image Credit: NASA/JPL-Caltech UT Austin - On Jupiter’s Moon Europa, ‘Chaos Terrains’ Could be Shuttling Oxygen to Ocean Hesse et al. - Downward Oxidant Transport Through Europa's Ice Shell by Density-Driven Brine Percolation文/松村武宏