「ハッブル」宇宙望遠鏡が撮影したこちらの画像、中央に写っているのは「うみへび座」の方向約106億光年先にある銀河です。「MRC 1138-262」や「LEDA 2826829」などと呼ばれているこの銀河は、その姿をもとに天文学者から「Spiderweb Galaxy(クモの巣銀河)」という愛称が名付けられています。
クモの巣銀河は、同じく“クモの巣”と呼ばれている原始銀河団の中心に位置しています。原始銀河団とは、最終的に現在の宇宙で見られるような銀河団に成長すると考えられている、複数の銀河からなる天体です。
イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のPaolo Tozziさんを筆頭とする研究グループは、原始銀河団で成長しているブラックホールを捜索するために、アメリカ航空宇宙局(NASA)のX線観測衛星「チャンドラ」を使って198時間に渡りクモの巣原始銀河団を観測し続けました。
ブラックホールへ落下していく際に加熱された物質から放射されるX線を捉えることで、研究者は間接的にブラックホールの存在を知ることができます。チャンドラを用いた観測の結果、クモの巣原始銀河団にある銀河のうち約25パーセントが狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核を持っていて、超大質量ブラックホールが活発に成長していることがわかったといいます。
次に掲載するのは、クモの巣銀河周辺の広範囲を捉えた画像です。国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」が撮影した画像を背景に、チャンドラのX線観測データを紫色に着色した画像が合成されています。青い丸で囲まれた14個のX線源は、チャンドラの観測によって検出された活動銀河核です。
活動銀河核を持つ銀河は活動銀河と呼ばれています。チャンドラの官制を担うスミソニアン天体物理観測所のチャンドラX線センターによれば、年齢や質量が同じくらいの銀河における活動銀河の比率と比較すると、クモの巣原始銀河団に存在する活動銀河の比率は5倍から20倍も高いのだといいます。Tozziさんも「かなりの比率です」と語っています。
チャンドラX線センターによると、クモの巣原始銀河団でブラックホールが活発に成長している理由として、銀河どうしの衝突や相互作用が高い割合で発生し、ブラックホールにガスが送り込まれている可能性が考えられるといいます。また、高温のガスよりもブラックホールに取り込まれやすい低温のガスが原始銀河団にはまだ多く存在することも、理由の一つとして考えられるとのことです。
本稿に掲載した画像は、チャンドラX線センターから2022年3月31日付で公開されています。
※記事中の距離は、天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています。
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Source
Image Credit: X-ray: NASA/CXC/INAF/P. Tozzi et al; Optical (Subaru): NAOJ/NINS; Optical (HST): NASA/STScI チャンドラX線センター - Spiderweb Galaxy Field: Feasting Black Holes Caught in Galactic Spiderweb Media INAF - Ingozzandosi di gas nella tela del protoammasso 国立天文台 - 遠い天体の距離について文/松村武宏