アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)は現在、火星表面で採取したサンプルを地球に持ち帰るための一連のミッションを共同で計画・実施しています。今まで人類が手にしてきた火星の岩石サンプルは隕石として火星から地球へ飛来したもの(火星隕石)に限られていましたが、この火星サンプルリターンミッションが成功すれば、人類は火星で直接採取されたサンプルを初めて手にすることになります。
NASAとESAによる火星サンプルリターンミッションは「火星でのサンプル採取」「サンプルの回収と打ち上げ」「サンプルを地球へ輸送」という三段構えのミッションで構成されています。
このうち第1段階となる「火星でのサンプル採取」は、2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターに着陸したNASAの火星探査車(ローバー)「Perseverance(パーセベランス、パーシビアランス)」によって、すでに進められています。次は第2段階の「サンプルの回収と打ち上げ」を担うミッションが実施されることになるのですが、このミッションはさらに2段階に分割されることになるようです。海外メディアのSpaceNewsやSpace.comなどが報じています。
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米国のバイデン政権は現地時間2022年3月28日に、同年10月1日から始まる2023会計年度の予算教書を議会に提出しました。NASAに関しては深宇宙探査ミッション(アルテミス計画を含む)に約76億ドル、月探査ミッション向けの共通探査システム開発(オリオン宇宙船やSLSを含む)に約47億ドル、地球観測衛星やそれに関連した研究に約24億ドルなど、全体では約260億ドルが要求されています。NASAはその概要を文書で公開しているのですが、文書では火星サンプルリターンミッションの変更点についても触れられています。
「サンプルの回収と打ち上げ」を行う第2段階のミッションでは、ESAが開発中のローバー「Sample Fetch Rover(SFR)」と、NASAが開発する小型ロケット「Mars Ascent Vehicle(MAV)」が重要な役割を果たします。ローバーSFRはジェゼロ・クレーターの表面からPerseveranceのサンプル保管容器を拾い集め、小型ロケットMAVは火星周回軌道で待機しているESAの地球帰還用探査機「Earth Return Orbiter(ERO)」にサンプルを送り届けます。
従来の計画では、ESAのローバーSFRとNASAの小型ロケットMAVは、どちらもNASAが開発する着陸機「Sample Retrieval Lander(SRL)」1機に搭載されて2026年に打ち上げられる予定でした。
しかし着陸時の質量に関する分析の結果、MAVとSFRを別々の着陸機「SRL1」と「SRL2」に搭載して打ち上げる方針に改められた模様です。SpaceNewsは、単一着陸機を前提とした分析結果について「本当にリスクが高い」と語ったThomas Zurbuchenさん(NASA科学ミッション本部副本部長)の言葉を伝えています。
打ち上げ回数が1回増えることになるため、ミッション全体のスケジュールも変更されています。従来の計画では、サンプルが地球へ届けられるのは2031年の予定でした。いっぽう、新たな計画ではESAのローバーSFRの打ち上げが2028年に、サンプルの地球到着は2033年に予定されています。
なお、現時点では小型ロケットMAVを搭載する着陸機SRL1はNASAのジェット推進研究所(JPL)によって製造される予定になっているものの、ESAのローバーSFRを搭載する着陸機SRL2が誰によって製造されるのかは決まっていない模様です。SpaceNewsによると、NASAのZurbuchenさんは2022年6月までに決定が下されると語ったとのことです。
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Source
Image Credit: NASA, JPL-Caltech, ESA, K. Oldenburg SpaceNews - NASA to delay Mars Sample Return, switch to dual-lander approach Space.com - Perseverance rover's Mars samples now won't make it to Earth until 2033 at best NASA - Budget Documents, Strategic Plans and Performance Reports ESA - Europe prepares for Mars courier文/松村武宏