アメリカ航空宇宙局(NASA)は2022年8月に小惑星探査機「Psyche(サイキ)」の打ち上げを予定しています。サイキは火星と木星の間に広がる小惑星帯を公転する小惑星「プシケ」(16 Psyche)の周回探査を目的として開発されました。
NASAのジェット推進研究所(JPL)は現地時間4月4日、サイキの打ち上げ前に予定されていた一連の環境試験が完了したことを明らかにしました。JPLによるとサイキの状態は良好で、打ち上げに向けた準備が整ったと判断されています。
ロケットに搭載された宇宙機は打ち上げ時に振動や音響にさらされますし、打ち上げ後は厳しい宇宙環境に耐えなければなりません。そのため、完成した宇宙機は打ち上げの前に、宇宙の電磁環境や真空環境、打ち上げにともなう衝撃・振動・音響を模した環境試験を受けなければなりません。たとえば、JPLの真空チャンバーで18日間に渡り実施された熱真空試験では、飛行中に経験する最高温度と最低温度の両方の条件でサイキの温度制御機能が確認されています。
サイキは2022年春にカリフォルニア州のJPLからフロリダ州のケネディ宇宙センターへと輸送され、打ち上げの準備が進められることになります。スペースXの「ファルコン・ヘビー」ロケットで打ち上げられたサイキはまず火星に向かい、2023年5月に火星スイングバイ(天体の重力を利用して探査機の軌道を変更する航法)を実施。プシケには2026年に到着する予定です。
最大直径280kmの小惑星プシケは、鉄やニッケルといった金属を豊富に含む「M型小惑星」に分類されています。その正体は内部が溶融して鉄と岩石(コアとマントル)に分化した後の原始惑星のコアであり、他の天体と衝突して外側が失われた結果、金属質のコアがむき出しになったのではないかと予想されてきました。ただ、従来の予想よりもプシケの空隙率(土壌や岩石などに含まれる隙間の体積割合)は高く、コアそのままの姿ではなく瓦礫が集まってできたラブルパイル天体に近いのではないかとする研究成果も2021年に発表されています。
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太陽系初期の原始惑星のコアだった可能性があるプシケの観測を通して、地球型惑星の形成に関する貴重な情報が得られると期待されています。
※本稿では探査機およびミッションの名称に「Psyche」の英語での読み方を用いています。
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10,000,000,000,000,000,000ドルの小惑星「プシケ」 (2020) ヨーロッパ南天天文台が撮影した42個の小惑星「カタログ」 小惑星の起源に手がかりも (2021) 1万年に1度の好機? 太陽系外縁天体「セドナ」に向けて探査機を打ち上げるなら2029年が最適か (2022)Source
Image Credit: NASA/JPL-Caltech NASA/JPL - Shake and Bake: NASA’s Psyche Is Tested in Spacelike Conditions文/松村武宏