アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間4月17日、ケネディ宇宙センターの39B射点で行われていた新型ロケット「SLS(スペースローンチシステム)」初号機の打ち上げリハーサル「ウェットドレスリハーサル」を中断し、SLSと発射台をロケット組立棟(VAB)まで一旦戻す予定であることを明らかにしました。
SLS初号機はNASAの有人月面探査計画「アルテミス」最初のミッション「アルテミス1」に用いられるロケットです。アルテミス1はSLSおよびNASAの新型宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」の無人テスト飛行にあたるミッションで、月周辺を飛行したオリオン宇宙船は打ち上げから4~6週間後に地球へ帰還します。
ウェットドレスリハーサル(wet dress rehearsal)は打ち上げ前に実施されるリハーサルで、NASAによれば約2日間に渡り本番と同様のタイムラインに沿って実施されます。SLSには極低温の推進剤(液体水素と液体酸素)が実際に充填され、カウントダウンはエンジン点火の直前まで進められます。また、途中でカウントダウンをホールドしたり、一度充填した推進剤を抜き取ったりすることで、何らかの問題が生じた際に打ち上げを中断できることも確認されます。
SLS初号機のウェットドレスリハーサルは米国東部夏時間(以下同様)2022年4月1日17時に始まったものの、移動式発射台の密閉区画を加圧するファンや、推進剤の充填中にコアステージ(第1段)内部の圧力を下げるベントバルブ(通気弁、逃がし弁)に問題が発生したため、4月4日に中止。隣接する39A射点では初の民間主導による国際宇宙ステーション(ISS)滞在ミッション「Ax-1」の打ち上げが迫っていたため、リハーサルの再開はAx-1の打ち上げ後となっていました。
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4月12日夕方、再開されたウェットドレスリハーサルは途中からではなく改めて最初の段階からスタートしました。4月14日朝にはケネディ宇宙センター外部からの窒素ガス供給に問題が生じましたが、間もなく解消。14日8時5分にはコアステージの推進剤充填に“ゴー”の判断が下り、液体酸素の供給ライン冷却と充填が始まりました。途中、液体酸素の温度が予定より高かったために充填が自動停止する場面もあったものの、温度が高い液体酸素を排出しつつ作業は続行されます。
続いて液体水素の供給ライン冷却と充填作業が始まりましたが、4月14日午後早くにテールサービスマストアンビリカル(tail service mast umbilical)から液体水素の漏洩が認められたため、推進剤の充填が停止されました。アンビリカル(日本語で「へその緒」)とは打ち上げ前のロケットと発射台をつなぐラインのことで、移動式発射台の基部にあるテールサービスマストからは液体酸素・液体水素の配管や電気配線がコアステージのエンジンセクションに接続されています。この時点でコアステージには液体酸素が49パーセント、液体水素が5パーセント充填されていました。
コアステージへの推進剤充填は停止されましたが、追加のデータを得るために、39B射点ではSLS上段(第2段)の「ICPS」に液体水素を充填するための供給ライン冷却を実施。その後、ウェットドレスリハーサルは4月14日17時10分頃に中止されました。
4月17日の発表によると、窒素ガスの供給事業者が改修を行う機会を利用して、SLS初号機と移動式発射台は一旦VABに戻されることになりました。VABでは液体水素が漏洩したテールサービスマストアンビリカルと、ICPSのヘリウム逆止弁が交換されます。
NASAによると、4月4日に中止された最初のリハーサルの際、ICPSではヘリウムのパージ圧力に問題が生じていたといいます。ICPSの推進剤を充填・排出する際、配管には先にヘリウムが送り込まれます。9日までに問題の原因はヘリウム逆止弁の動作不良と特定されており、12日に再開されたリハーサルではICPSへの推進剤充填を行わないことになっていました。
なお、NASAは4月18日15時(日本時間4月19日4時)からメディア向けのテレカンファレンスを予定しています。
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Image Credit: NASA, Ben Smegelsky, Joel Kowsky NASA - NASA to Discuss Status of Artemis I Moon Mission NASA Blogs - Artemis文/松村武宏