こちらは「うみへび座」の方向約3億光年先にある「ヒクソン・コンパクト銀河群40」(HCG 40:Hickson Compact Group 40)です。
HCG 40は合計5つの銀河(渦巻銀河3つ、楕円銀河1つ、レンズ状銀河1つ)からなる小規模な集団です。画像を見ると銀河どうしがかなり接近しているように思えますが、実際に5つの銀河は天の川銀河の銀河円盤(直径約10万光年)の2倍未満、つまり直径20万光年未満の領域に密集している可能性があるといいます。
5つの銀河がこれほどまでに密集している理由の一つとして、光(電磁波)では観測できない暗黒物質(ダークマター)の存在が考えられるといいます。銀河の質量のうち、私たちが知覚できる通常の物質(バリオンと呼ばれる)が占める割合は低く、大半は暗黒物質だとされています。
銀河が接近すると互いの暗黒物質が集まって大きな雲を形成し、銀河はその中を周回するようになる可能性があるといいます。すると、暗黒物質をかきわけるように進む銀河は重力の作用によって速度が徐々に遅くなり、落下するように集まっていくというのです。
HCG 40の場合、観測されている状態から約10億年後にはすべての銀河が衝突・合体して、1つの巨大な楕円銀河が誕生すると予想されています。私たち人類は、5つの銀河が合体する前の貴重な瞬間を目撃しているのかもしれません。
この画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の打ち上げ32周年を記念して、アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)から2022年4月19日付で公開されたものです。ハッブル宇宙望遠鏡は今から32年前の1990年4月24日、スペースシャトル「ディスカバリー」に搭載されて打ち上げられました。毎年この時期にはハッブルの打ち上げを記念して、特別な天体画像が公開されています。
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NASAやESAによると、こうしたコンパクトな銀河群は100個以上がカタログ化されていますが、HCG 40はそのなかでも特に銀河が密集しているものの一つとされています。天文学者たちは電磁波の様々な波長でHCG 40を観測しており、電波を使った観測では各銀河の中心に超大質量ブラックホールが存在する可能性が示されている他に、X線を使った観測では銀河どうしの相互作用を物語る銀河間の高温ガスが捉えられています。
これまでの観測の結果から、初期の宇宙ではこのように密集した銀河群がより豊富に存在していた可能性が示されているといいます。比較的近い宇宙に存在するHCG 40のような銀河群を詳しく研究することは、銀河がいつどこで集まり、何によって集められたのかを解き明かす上で役立つと期待されています。
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Image Credit: NASA, ESA and STScI NASA/STScI - Celebrating Hubble's 32nd Birthday with an Eclectic Galaxy Grouping ESA/Hubble - Celebrating Hubble’s 32nd Birthday with a Galaxy Grouping文/松村武宏