アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間4月21日、2021年10月に打ち上げられた小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」の展開が未完了のままになっている太陽電池アレイについて、2022年5月から完全展開が試みられる予定であることを明らかにしました。
日本時間2021年10月16日に打ち上げられたルーシーは、木星トロヤ群の小惑星7つと小惑星帯の小惑星1つ、合計8つの小惑星の探査を目的としています。複数の小惑星を訪問することから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。
木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点」(公転する木星の前方)付近と「L5点」(同・後方)付近に分かれて小惑星が分布しています。
木星トロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成と進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)から名付けられました。なお、探査対象の小惑星については以下の関連記事もご覧下さい。
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地球よりも太陽から遠く離れた木星の公転軌道付近まで飛行することから、ルーシーには直径7.3mという巨大な円形(正確には十角形)の太陽電池アレイが2基搭載されています。この太陽電池アレイは扇のように広げて展開する仕組みになっているのですが、打ち上げ直後の2021年10月17日の時点で、片方の太陽電池アレイが完全に展開されなかったことが判明していました。
畳まれた状態で打ち上げられたルーシーの太陽電池アレイを展開するには、端に結び付けられている長さ約290インチ(約7.4メートル)のストラップをモーターで巻き取る必要があります。次の動画は打ち上げ前に地上で実施された太陽電池アレイの展開試験の様子ですが、巻き取られていくストラップの一部が写っています。
【▲ 小惑星探査機「ルーシー」の太陽電池アレイ展開試験の様子】
(Credit: NASA/Lockheed Martin, 2021)
NASAによると、展開が完了しなかった太陽電池アレイではストラップの巻き取りが途中で止まってしまった模様です。残ったストラップの長さは20~40インチ(約51~102センチメートル)と推定されています。
打ち上げ後の分析や地上での試験結果から、この太陽電池アレイは約345度まで展開されていて、発電量も十分だと判断されています。しかし、運用チームはルーシーの主エンジンが稼働した時に問題の太陽電池アレイが損傷する可能性を懸念しており、アレイの完全展開が試みられることになりました。
ストラップを巻き取るためのモーターは、冗長性を確保するためにメインとバックアップの2つが搭載されています。通常は1つのモーターしか作動しませんが、2つのモーターを同時に作動させることでより強いトルクを生み出し、残ったストラップをすべて巻き取ることが計画されています。地上試験の結果、2つのモーターはもつれたストラップを引っ張って太陽電池アレイをロックさせるのに十分なトルクを生み出す可能性が示されたといいます。
太陽電池アレイ完全展開の試みは2つのステップに分けて実施されます。1番目のステップでは残ったストラップの大半を巻き取るものの、太陽電池アレイがロック機構で固定されるところまでは巻き取らずに、地上試験の結果と一致するかどうかが確認されます。このステップが計画通りに進めば、2番目のステップで太陽電池アレイの固定が試みられます。1番目のステップは2022年5月第2週に、2番目のステップはその約1か月後に実施される見込みです。
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Image Credit: Southwest Research Institute, NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab, NASA/Lockheed Martin NASA Blog - Lucy Mission文/松村武宏