月に水が存在することは確実視されています。水の有無は、NASAのアルテミス計画など、人類が月に長期に渡って滞在する計画の鍵を握っていると言えるでしょう。
月の水の大部分は、「後期重爆撃」と呼ばれる時期に小惑星や彗星の衝突によって堆積したと一般的に考えられています。また、太陽風が運んできた水素イオンと酸素イオンが結合し、それが水分子となり月に降り注いだ可能性も指摘されています。
この度、アラスカ大学フェアバンクス校(University of Alaska Fairbanks:UAF)地球物理学研究所の科学者たちが発表した新しい研究によると、地球の上層大気から逃げ出した水素イオンと酸素イオンが月で結合し、既知の月の水や氷や源の一つになっている可能性のあることが明らかになりました。
UAF地球物理学研究所のGunther Kletetschka准教授が率いるこの研究は、2022年3月16日に「Scientific Reports」誌に掲載されました。
研究チームが、NASAの月周回衛星「ルナ・リコネサンス・オービター(Lunar Reconnaissance Orbiter)」の重力データを用いて、月の極域といくつかの主要なクレーターを調査した結果によるもので、月に水が堆積したメカニズムについて、新たな仮説が加わったことになります。
この研究では、月が地球の磁気圏の尾の部分を通過する際に、水素イオンと酸素イオンが月に流れ込むことを示唆しています。NASA、欧州宇宙機関、JAXA、インド宇宙研究機関など複数の宇宙機関が最近行った観測によると、磁気圏のこの部分を月が通過する際、水を形成するイオンが、かなり多く存在していることが判明したとのこと。
磁気圏の尾部に月が存在することで、地球の磁力線の一部が一時的に影響を受け、断線状態になったり、何千マイルも宇宙空間に飛び出したりします。地球の磁力線のすべてが両端で地球とくっついているわけではなく、片方しかくっついていないものもあると言うのです。
そして、これらの切れた磁力線の一部が、反対側の切れた磁力線と再び結合します。このとき、地球から逃げてきた水素イオンや酸素イオンが、再びつながった磁力線に殺到し、地球に向かって加速されるのです。
そして、戻ってきたイオンの多くが、磁気圏を持たない通過中の月にぶつかります。「月がシャワーを浴びているようなものです。地球に戻ってきた水のイオンのシャワーが、月面に降り注いでいるのです」と、Kletetschka氏は言っています。
結果的に、そのイオンが結合して、月の永久凍土を形成します。また、その一部は、小惑星の衝突などの地質学的プロセスや他のプロセスを通じて、地表下に追いやられ、液体の水となるのです。
この新しい研究によると、月の極域には最大3,500立方キロメートル(840立方マイル)以上にも及ぶ、地表の永久凍土や、地下に液体の水が存在する可能性があると推定されました。これは、世界で8番目に大きい湖である北米のヒューロン湖に匹敵する体積だとのことです。
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Image Credit: NASA, Gunther Kletetschka, ESA University of Alaska Fairbanks / Scientific Reports文/吉田哲郎