こちらはアメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)から5月9日付で公開された比較画像です。どちらも約16万光年先にある大マゼラン雲(大マゼラン銀河とも)の全く同じ領域が、人の目には見えない赤外線の波長で捉えられています。
左は2020年1月まで運用されていたNASAの宇宙望遠鏡「スピッツァー」の赤外線アレイカメラ「IRAC」、右は2021年12月25日に打ち上げられたNASA・ESA・CSA(カナダ宇宙庁)の新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」の中間赤外線装置「MIRI」を使って取得されました。ぱっと見ただけでも明らかなように、ウェッブのMIRIはスピッツァーのIRACよりもずっと鮮明に星々や星間ガスを捉えています。
波長5~28μmの中間赤外線を捉えるMIRIは、遠方の銀河、新たに形成された星、かすかにしか見えない彗星やエッジワース・カイパーベルトの天体などを検出できる高感度の観測装置です。NASAによると、試験的に取得されたMIRIの画像では多環芳香族炭化水素(※)から放出された赤外線が捉えられており、前例のない精細さで星間ガスの細部が示されているといいます。
※…Polycyclic Aromatic Hydrocarbon:PAH。ベンゼン環を2つ以上持つ化合物の総称
ウェッブ宇宙望遠鏡は2022年1月下旬に太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」を周回するような軌道(ハロー軌道)へ到着し、現在は2022年夏からの科学観測開始に向けて調整が進められています。冒頭に掲載したMIRIの画像は光学系の調整の最終段階で試験的に取得されたもので、4月28日付でNASAやESAから公開されていました。
初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河、太陽系外惑星、それに太陽系内の天体の観測などで活躍が期待されているウェッブ宇宙望遠鏡。その本格的な観測のスタートが今から楽しみです!
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech, NASA/ESA/CSA/STScI, NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez NASA - MIRI’s Sharper View Hints at New Possibilities for Science ESA - MIRI and Spitzer comparison image文/松村武宏