この宇宙に存在する銀河は、私たちが住む天の川銀河のような渦巻腕(渦状腕)を持つ「渦巻銀河・棒渦巻銀河」、目立った構造を持たない「楕円銀河」、渦巻銀河と楕円銀河の中間的な形態の「レンズ状銀河」といったように、その形態をもとに分類されています。
渦巻銀河や棒渦巻銀河では、新しい星を生み出す星形成活動が起きています。いっぽう、楕円銀河では星形成活動がほとんど起きていないことが知られています。その理由はまだ明らかではないものの、楕円銀河は何らかの理由で成長が止まってしまったようなのです。
どうして楕円銀河では星形成活動が止まってしまったのか。その謎を解く鍵は、初期宇宙の銀河が握っていると考えられています。
国立天文台によると、100億年以上前の宇宙では多くの銀河で活発な星形成活動が起きていたとみられていますが、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」などによる近年の観測の結果、一部の銀河ではすでに星形成活動が止まっていたことがわかってきました。
宇宙初期に成長が止まっていたこれらの銀河は、現在の宇宙における楕円銀河の祖先である可能性があるといいます。その性質を調べることで、楕円銀河の星形成活動が止まった理由に迫ることができるかもしれません。
■銀河中心の巨大なブラックホールが星形成活動を終わらせたのかもしれない総合研究大学院大学の大学院学生だった伊藤慧さん(現在は東京大学)を筆頭とする研究グループは、「宇宙進化サーベイ(COSMOS:Cosmic Evolution Survey)」という観測プロジェクトで得られたデータをもとに、初期宇宙で星形成活動が止まっていた数千個の銀河を詳しく調べました。
COSMOSは銀河の形成と進化を探ることを目的とした「ハッブル」宇宙望遠鏡のトレジャリー(基幹)プロジェクトで、アメリカ国立電波天文台(NRAO)の電波干渉計「カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)」、欧州宇宙機関(ESA)のX線宇宙望遠鏡「XMM-Newton」、それに日本の「すばる望遠鏡」も参加。「ろくぶんぎ座」の方向に設定された2平方度(満月9個分)の天域を対象に多波長(X線から電波までの様々な波長)での高感度な観測が実施されていて、銀河の様々な側面を同時に調べることができるといいます。
研究グループは「すばる望遠鏡」などの観測データをもとに、星形成活動が止まっていた約95億~125億年前の銀河5211個を選出。銀河の位置とX線・電波の強度を重ね合わせたところ、これらの銀河はX線や電波を放射しているのが一般的であることが判明したといいます。X線や電波の放射強度は銀河を構成する星々から予想されるものよりも強かったことから、この放射は主に銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールの活動に由来すると予想されています。
現在の宇宙における楕円銀河の多くは、「M87」のように活動的な超大質量ブラックホールを持つことが知られています。今回の解析結果では、初期の宇宙で星形成活動を終えた銀河も、現在の宇宙の楕円銀河と同じように活動的な超大質量ブラックホールを持つのが一般的であることが示されました。このことから研究グループは、初期宇宙の銀河で星形成活動が止まった原因と、超大質量ブラックホールの活動性には関連があるのではないかと考えています。
ただし、今回の研究では「初期宇宙の銀河における星形成活動の終焉に超大質量ブラックホールが関わっている可能性」は示されたものの、星形成活動が終わるまでのプロセスは明らかにされていません。超大質量ブラックホールの活動によって初期宇宙の銀河の成長が止まった具体的なプロセスを解明するために、研究グループは今後も調査を進めていくとしています。
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Image Credit: NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Cote (Herzberg Institute of Astrophysics) and E. Baltz (Stanford University); 国立天文台 国立天文台すばる望遠鏡 - 多波長観測が解き明かす遠方宇宙の星形成活動の終焉―銀河の成長を妨げたのはブラックホールか?― 総合研究大学院大学 - 【プレスリリース】多波長観測が解き明かす、遠方宇宙の星形成活動の終焉文/松村武宏