アメリカ航空宇宙局(NASA)は6月8日、新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ(James Webb)」の主鏡を構成する18枚の鏡の1つで、微小な流星物質との衝突が起きたことを明らかにしました。
NASAによれば、この衝突は観測データにかろうじて検出できる影響を及ぼしたものの、ウェッブ宇宙望遠鏡の性能は依然としてミッションの全要件を超えるレベルであることが確認されています。科学観測開始後に取得された高解像度画像の初公開も、予定通り2022年7月に行われる見込みです。
■ダストの衝突は設計段階で想定済み、運用スケジュールにも影響なし2021年12月25日に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブは、初期の宇宙・銀河の進化・星のライフサイクル・太陽系外惑星の生命居住可能性といったテーマに焦点を合わせ、赤外線の波長で天体を観測する宇宙望遠鏡です。2022年1月下旬に太陽と地球のラグランジュ点のひとつ「L2」を周回するような軌道(ハロー軌道)へ到着したウェッブ宇宙望遠鏡は、2022年夏の科学観測開始に向けて調整が進められてきました。
ウェッブ宇宙望遠鏡の直径6.5mの主鏡は、18枚の六角形セグメントに分割されています。主鏡セグメントの裏側にはそれぞれ7つのアクチュエーターが取り付けられていて、18分割された主鏡を「1枚の鏡」として機能させるために個々の位置を変えたり曲率を調整したりすることが可能です。
NASAによると、2022年5月23日~5月25日の期間内に、ダスト(塵)サイズの流星物質(Micrometeoroid、微小隕石)がウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡セグメントの1つ「C3」に衝突しました。流星物質とは直径30μm~1m程度の小さな天体のことで、地球の大気圏に突入したものは流星として観測されます。
「衝突」と聞くとウェッブ宇宙望遠鏡の状態やミッションに対する影響が心配になりますが、流星物質との衝突は避けられないリスクとして事前に想定されているとのこと。ウェッブ宇宙望遠鏡の鏡はダストサイズの流星物質との衝突に耐えられるように設計されていて、鏡のサンプル品を使った衝突試験やシミュレーションモデルによる分析も行われていました。
ウェッブ宇宙望遠鏡の光学望遠鏡要素(※)マネージャーを務めるLee Feinbergさん(NASAゴダード宇宙飛行センター)によると、宇宙空間に露出している主鏡は微小な流星物質との衝突によって性能が徐々に劣化することが予測されているといいます。今回発表されたものも含めて、検出可能な衝突は打ち上げ以来5回起きているそうです。ただ、過去に起きた4回の衝突は予測の範囲内だったものの、5月下旬に起きた主鏡セグメントC3への衝突は予測を上回る規模だったといいます。
※…光学望遠鏡要素:主鏡や副鏡などの光学系やそれを支える構造、サブシステムなどを含むウェッブ宇宙望遠鏡の構成要素の一つ。Optical Telescope Element(OTE)
影響をすべて打ち消すことはできないものの、衝突後にセグメントC3は位置の再調整が済んでおり、冒頭でも触れたようにウェッブ宇宙望遠鏡の性能は依然良好であることが確認されています。また、今回の流星物質衝突を受けて、同規模の衝突による影響を緩和する方法を検討するための専門チームも結成されました。チームの技術者はNASAマーシャル宇宙飛行センターの専門家とも連携して、ウェッブ宇宙望遠鏡の性能がどのように変化するのかを正確に予測するためのデータを収集していくことになります。
なお、ウェッブ宇宙望遠鏡が科学観測で取得した最初の高解像度画像群と分光観測データは、1か月後の2022年7月12日に公開される予定です。
関連:新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」最初の画像公開は7月12日!
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Image Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez; STScI NASA - Webb: Engineered to Endure Micrometeoroid Impacts文/松村武宏