夜空いっぱいに星々が輝く様子を捉えたこちらのパノラマ画像、実は同じ場所から撮影された1枚の写真ではありません。北半球と南半球で撮影された星空を合成することで、実際には見ることができない夜空が表現されているのです。
※スマートフォンでも見やすいように左へ90度回転させた縦長のバージョンを記事の最後に掲載しています
撮影場所は、右側の北半球がハワイのマウナケア山、左側の南半球がチリのセロ・パチョンです。マウナケアとセロ・パチョンには、南北両半球で望遠鏡を運用するジェミニ天文台の「ジェミニ北望遠鏡」と「ジェミニ南望遠鏡」(どちらも口径8.1m)がそれぞれ設置されていて、パノラマ画像に使われている写真はその所在地で撮影されました。よく見ると、画像右端にはマウナケア山の山頂にある別の望遠鏡(W.M.ケック天文台の「Keck-I」「Keck-II」および国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」)も写っています。
パノラマ画像の右側と左側を斜めに横切っているのは天の川です。北半球と南半球で撮影された星空がつなぎ合わされているこの画像では、星々や星間物質が集まっている天の川銀河の中心方向を見ている南半球(左側)の天の川と、その反対方向を見ている北半球(右側)の天の川を1枚の画像で見比べることができます。
いっぽう、画像の左右方向には淡い「黄道光(こうどうこう)」も真っすぐ伸びています。黄道光とは、天球における太陽の見かけの通り道である「黄道(こうどう)」に沿って見える淡い光の帯のことで、黄道に沿うように分布している宇宙空間の塵(惑星間塵)に散乱された太陽光がその正体です。最近の研究では、黄道光をもたらす塵が火星に由来する可能性も指摘されています。ちなみに左側(南半球)の地平線の近く、黄道光のなかで明るく輝いているのは金星です。
冒頭の画像は、米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)から2022年6月22日付で公開されています。なお、同様のコンセプトの画像はヨーロッパ南天天文台(ESO)からも2021年9月に公開されています(関連記事参照)。こちらもあわせてお楽しみ下さい。
関連
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Source
Image Credit: NOIRLab/NSF/AURA/ P. Horálek (Institute of Physics in Opava), T. Slovinský NOIRLab - When Hemispheres Connect文/松村武宏