まずはアメリカ航空宇宙局(NASA)が公開したこちらの動画をご覧下さい。これは日本時間2020年10月21日に実施された、NASAの小惑星探査機「OSIRIS-REx」(オシリス・レックス、オサイリス・レックス)による小惑星「ベンヌ」(101955 Bennu)からのサンプル採取の様子を再現したものです。
機体の下部にサンプル採取装置「TAGSAM」(Touch-And-Go Sample Acquisition Mechanism)を伸ばしたオシリス・レックスは、ベンヌの表面に向かってゆっくりと降下していきます。表面に接触してから1秒後、TAGSAMの先端からは採取する小石や砂を巻き上げるための窒素ガスが噴射されました。接触から9秒後にはスラスターが噴射され、サンプルを採取したオシリス・レックスはベンヌから離れていきます。
【▲ 小惑星探査機「オシリス・レックス」によるサンプル採取「TAG」を再現した動画】
(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/CI Lab)
この動画は、ベンヌの表面に関する最新の研究成果2件の発表にあわせて公開されました。今回の研究では、ベンヌ表面の瓦礫が非常に緩く結びついていることが明らかにされています。一方の研究を率いたサウスウエスト研究所(SwRI)のKevin Walshさんによると、ベンヌのように瓦礫がゆるく集積してできた「ラブルパイル天体」では重力が弱く、上部の層が圧縮されないため、表面すぐ下は低密度で弱く結合しているといいます。こうした性質はサンプル採取が行われた場所だけのものでなく、ベンヌ全体でみられる性質だと結論付けられています。
NASAによれば、2020年10月にサンプル採取が実施された時、オシリス・レックスのTAGSAMは岩や小石が緩く集積しているベンヌの表面から50cm下まで沈み込みました。サンプル採取時に巻き上がった瓦礫は約6トンと見積もられています。NASAはベンヌ表面の状態をボールプールのようだと表現しており、ベンヌから離れるためにスラスターを噴射していなければ、オシリス・レックスはベンヌに沈み込んでいただろうといいます。もしも人間がベンヌに足を下ろしても、わずかな抵抗しか感じないようです。
地上や宇宙からの観測データに基づき、ベンヌの表面はなめらかな砂浜のようだと予想されていたといいますが、2018年12月に到着したオシリス・レックスが見たのは岩が散らばった表面でした。オシリス・レックスの主任研究員を務めるアリゾナ大学のDante Laurettaさんは、表面の予想について「完全に間違っていました」と語っています。
今回の成果は他の小惑星の観測データをより良く解釈する上で役立つとともに、将来の小惑星探査ミッションや惑星防衛(プラネタリーディフェンス※)でも役立つ可能性があるとして期待されています。
※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、いずれは小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組み
なお、オシリス・レックスは2021年5月にベンヌを離れて地球に向かっており、サンプルを収めた回収カプセルは2023年9月24日に地球の大気圏へ突入して回収される予定です。
関連:NASA小惑星探査機「オシリス・レックス」がベンヌを出発、地球への帰路に
■この記事は、【Spotifyで独占配信中(無料)の「佐々木亮の宇宙ばなし」】で音声解説を視聴することができます。
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Image Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/CI Lab NASA - Surprise – Again! Asteroid Bennu Reveals its Surface is Like a Plastic Ball Pit SwRI - SwRI-led study provides new insights about surface, structure of asteroid Bennu文/松村武宏