過去に存在していた、あるいは今も存在するかもしれない地球外生命の痕跡(残留物)を見つけることは、惑星探査における大きな目標の一つです。ハワイ大学マノア校のAnupam Misra氏を筆頭とする研究チームによって開発された革新的な科学機器は、その目標を前進させる可能性があると期待されています。Misra氏らの研究成果は、2022年6月17日付けで「Nature Scientific Reports」誌に掲載されました。
その機器は「コンパクト・カラー・バイオファインダー(Compact Color Biofinder)」と呼ばれています。バッテリー駆動でノートパソコンから操作できるポータブルな装置であるバイオファインダーは、特殊なカメラを使って広い範囲をスキャンし、アミノ酸、化石、堆積岩、植物、微生物、タンパク質、脂質といった、生体物質の蛍光シグナルを検出することができるとされています。
研究チームによると、米国コロラド州・ワイオミング州・ユタ州にまたがる5600万~3400万年前(古第三紀始新世)のグリーンリバー累層から産出した魚の化石に含まれていた生物学的残留物(生命の痕跡)を、この装置は検出することに成功したといいます。
装置の開発責任者であるMisra氏は「岩石に付着した微量の生物学的残留物を昼間でも検出できる装置は、今のところ他にありません。さらに、バイオファインダーの強みは、数メートルの距離から動作し、ビデオを撮影し、広い領域をすばやくスキャンできることです」「もしもバイオファインダーが火星や他の惑星を探査するローバー(探査車)に搭載されていれば、たとえ何百万年も前に死んだ目に見えないほど小さな生物だったとしても、その痕跡を検出するために広範囲を迅速にスキャンすることができます」と語っています。
Misra氏は、地球外生命探査を目的としたアメリカ航空宇宙局(NASA)の将来のミッションでは、バイオファインダーで用いられている蛍光イメージングが重要な手段になると期待しています。Misra氏たちは実際に、将来のミッションでバイオファインダーを送り込む機会をNASAに申請しているそうです。
また、論文の共著者で生物学者のSonia J. Rowley氏は、バイオファインダーの能力について、「地球に出入りする微生物や地球外でバイオハザード(生物学的災害)を引き起こす汚染物を正確かつ非侵襲的に検出するために、NASAの惑星保護(※)プログラムにおいて極めて重要になるでしょう」と語っています。
※…探査対象の天体を地球の生物で汚染したり、反対に探査対象の天体に由来する生物を地球へ持ち込んだりしないようにする取り組みのこと。
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Image Credit: Misra, et al.、A. Misra University of Hawaii - UH-developed tool can detect ancient life on Earth and beyond Nature Scientific Reports - Biofinder detects biological remains in Green River fish fossils from Eocene epoch at video speed文/吉田哲郎