ルーヴェン・カトリック大学(※)のTomer Shenarさんを筆頭とする研究チームは、天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)のひとつである約16万光年先の「大マゼラン雲」(大マゼラン銀河とも)で、新たに恒星質量ブラックホール(質量が太陽の数倍~数十倍のブラックホール)を発見したとする研究成果を発表しました。
※…研究当時、現在はアムステルダム大学
恒星質量ブラックホールは重い恒星が超新星爆発を起こした時に形成されると考えられてきましたが、近年では超新星爆発が起きずに直接ブラックホールが形成される可能性も指摘されています。今回発見されたブラックホールは、超新星爆発を伴わずにブラックホールが誕生することを示す証拠のひとつである可能性があるようです。
■VFTS 243のブラックホールは超新星爆発を伴わずに直接形成された可能性Shenarさんたちは、大マゼラン雲にある輝線星雲「かじき座30(30 Doradus)」、別名「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」にある1000個近くの大質量星を対象に、恒星質量ブラックホールとともに連星を組んでいる可能性がある星を探しました。その結果、「VFTS 243」と呼ばれる連星が、大質量星と恒星質量ブラックホールからなる連星であることが明らかになったといいます。
研究チームによると、大質量星の質量は太陽の約25倍、恒星質量ブラックホールの質量は少なくとも太陽の約9倍で、公転周期は10.4日とされています。なお、今回の研究ではチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」を使用し、約6年間に渡って取得された観測データが用いられています。
【▲ 連星「VFTS 243」の想像図(動画バージョン)】
(Credit: ESO/L. Calçada)
太陽よりも8倍以上重い恒星は、生涯の最後に超新星爆発の一種「II型超新星」(※)を起こして中性子星や恒星質量ブラックホールを残すと考えられています。研究チームによると、誕生時の質量が太陽の15倍以上だった恒星の場合、残されるのはブラックホールだといいます。最後を迎えた大質量星が別の恒星と連星を成していた場合は、VFTS 243のようなブラックホール連星(ブラックホールを含む連星)が誕生することになります。
※…核融合反応によるエネルギーで自重を支えられなくなった恒星のコア(核)が崩壊し、その反動で外層が吹き飛ぶことから「コア崩壊型」や「重力崩壊型」とも呼ばれる。
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ところが研究チームによれば、VFTS 243の真円に近い公転軌道をはじめとした特徴は、過去に超新星爆発が起きなかったことを示唆するようです。「VFTS 243でブラックホールを形成した星は完全に崩壊したようです、これまでに爆発が起きた痕跡はありません」(Shenarさん)
近年では、大質量星のコアが崩壊する時に超新星爆発を伴わず直接ブラックホールが形成される場合があると指摘されていて、「直接崩壊(direct collapse)シナリオ」や「失敗した超新星(failed supernova)」と呼ばれています。Shenarさんは今回の成果について、間違いなくこの現象の直接的な兆候の1つであり、ブラックホール連星の起源を理解する上で大きな意味を持つと語っています。
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Image Credit: ESO/L. Calçada ESO - 'Black hole police' discover a dormant black hole outside our galaxy文/松村武宏