「ヘルクレス座」の一角を捉えたこちらの画像、一見すると2つの銀河が写っているように思えますが、実は違います。右上に写っているのは、「LEDA 58109」と呼ばれている単一の銀河です。いっぽう、左下の銀河は「SDSS J162558.14+435746.4」と呼ばれていますが、その中心から右側に飛び出したピンク色の構造のように見えるのは、背後にある別の銀河「SDSS J162557.25+435743.5」の一部なのです。
左下に写っている2つの銀河の名前はとてもよく似ていますが、これは地上の望遠鏡による掃天観測プロジェクト「スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)」のカタログに記載されていることを示す「SDSS」と、天球のどこに見えるのかを示した座標(赤経と赤緯)をもとに付けられています。重なり合って見えるほど近い位置にあるため、座標の値もかなり近いというわけです。ちなみに右上の銀河の「LEDA 58109」は、1983年にリヨン天文台が作成した「リヨン-ムードン銀河系外データベース(Lyon-Meudon Extragalactic Database)」での名前であり、SDSSのカタログでは「SDSS J162551.50+435747.5」と呼ばれています。
この画像に写っている銀河は、市民参加型の天文学プロジェクト「Galaxy Zoo」で実施された投票で選ばれた銀河の一部です。10万人以上のボランティアが参加したGalaxy Zooでは、未調査の銀河90万個が分類されました。プロの天文学者が何年も費やした可能性がある作業を、ボランティアたちはわずか175日間で達成したといいます。
ESAによれば、Galaxy Zooプロジェクトでは相互作用銀河をはじめ、風変わりで素晴らしいタイプの銀河が幾つも見つかっており、その一部はこれまで研究されたことがなかったといいます。そこで、Galaxy Zooは「ハッブル」宇宙望遠鏡による追加観測の対象を選ぶための投票を2018年に実施。一般市民から約1万8000票が投じられた結果、冒頭の画像のように重なり合って見える銀河をはじめ、合体銀河やリング状構造を持つ銀河など、全部で300個の銀河が観測対象に選ばれました。
冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡に搭載されているカメラ「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」、セロ・トロロ汎米天文台のブランコ4m望遠鏡に設置されている「ダークエネルギーカメラ(DECam)」、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)による光学観測データをもとに作成されたもので、ESAから2022年7月25日付で公開されています。
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Image Credit: ESA/Hubble & NASA, W. Keel ESA/Hubble - Follow the LEDA文/松村武宏