こちらは、南天の「ちょうこくしつ座」の方向約5億光年先にある「車輪銀河」(Cartwheel galaxy、ESO 350-40)と2つの伴銀河(衛星銀河)です。
車輪銀河はその名が示すように、直径約15万光年とされる大きなリング構造や、内側と外側のリング構造をつなぐスポークのような構造を持つ印象的な姿をしています。大小のリングやスポークを彩る赤色は、炭化水素に富む塵の分布に対応しています。いっぽう、スポークの隙間から見える青色の輝きは、個々の星や星形成領域(ガスや塵から新たな星が形成されている領域)を示しています。
この画像は、2022年夏から本格的な観測を始めた「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡に搭載されている近赤外線カメラ「NIRCam」と中間赤外線装置「MIRI」を使って取得された画像(合計10種類のフィルターを使用)をもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人間には見えない赤外線で主に観測を行うため、画像の色は赤外線の波長に応じて着色されています(NIRCamの画像は青・緑・黄・赤、MIRIの画像はオレンジ)。また、画像の幅は約34万光年に相当します。
ウェッブ宇宙望遠鏡や「ハッブル」宇宙望遠鏡を運用するアメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、かつて車輪銀河は一般的な渦巻銀河の姿をしていたものの、ここには写っていない小さな銀河と高速で正面衝突した結果、石を落とした池に広がる波紋のように内側から外側へと広がる衝撃波が生じたことで、このような姿になったと考えられています。衝突前に存在していた渦巻腕(渦状腕)を含む渦巻銀河としての特徴は、命名のきっかけとなったスポークのような構造にも現れています。
車輪銀河はハッブル宇宙望遠鏡でも観測されたことがありますが、ハッブルが主に利用する可視光線は塵に遮られやすい性質があります。塵に遮られにくい赤外線を利用し、星々や星形成領域を見分けることができる高精度な観測装置を搭載したウェッブ宇宙望遠鏡は、ゆっくりと変化し続けている車輪銀河についての新たな理解をもたらしたといいます。
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STScIによると、車輪銀河の外側のリングでは新たな星を生み出す星形成活動や大質量星の超新星爆発が起きていて、4億4000万年ほどの時間をかけて現在観測されている大きさまで膨張したとみられています。いっぽう、車輪銀河の明るい中心部分には膨大な量の塵が含まれており、特に明るい部分には若く巨大な星団が幾つも存在するとされています。
こうした車輪銀河の姿は一時的なもので、今後も変化し続けていくと考えられています。ウェッブ宇宙望遠鏡は変わり続ける車輪銀河のスナップショットだけでなく、車輪銀河の歴史を紐解いたり、今後の進化を予測したりするための知見も提供したとのことです。冒頭の画像はSTScI、アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)から2022年8月2日付で公開されています。
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Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, STScI STScI - Webb Captures Stellar Gymnastics in the Cartwheel Galaxy NASA - Webb Captures Stellar Gymnastics in The Cartwheel Galaxy ESA/Webb - Webb Captures Stellar Gymnastics in The Cartwheel Galaxy文/松村武宏