世界中の研究者や宇宙ファンから待ち望まれた「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡は、2021年12月に打ち上げられ、2022年7月に最初の高解像度画像が公開されました。
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その「宇宙の絶景」とも言える画像はさまざまなメディアで紹介され話題になりましたが、その中の一つに「ステファンの五つ子銀河(Stephan's Quintet)」があります。
ステファンの五つ子銀河は、ペガスス座の方角に見える近接した銀河の集まりです。五つ子と呼ばれてはいますが、物理的に結び付くほど実際に近接しているのはそのうちの4つ(NGC 7317、NGC 7318A、NGC 7318B、NGC 7319)で、残りの1つ(NGC 7320)はたまたま同じ方角に見えているにすぎないと考えられています。
距離を測定してみると、前者の4つの銀河までの距離は約3億光年であるのに対して、後者の1つの銀河までの距離は約4000万光年で、ずっと地球に近いことから、前者4つと後者1つは実際には離れていることがわかります。
ステファンの五つ子銀河を撮影したのはウェッブ宇宙望遠鏡が初めてではありません。過去には「ハッブル」宇宙望遠鏡も撮影を行っています。
ウェッブ宇宙望遠鏡の主鏡(直径6.5m)はハッブル宇宙望遠鏡の主鏡(直径2.4m)より大きいものの、赤外線の領域での観測に特化しています。そのため、可視光線で捉えることができるのは波長が長いオレンジ色のあたりまでで、波長が短い青色を捉えることはできません。一方、ハッブル宇宙望遠鏡はウェッブ宇宙望遠鏡ほどには赤外線を捉えることはできませんが、可視光線の青色光だけでなく、紫外線の領域まで観測することができます。
だとすると「ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の観測データを組み合わせることで、より幅広い色調(波長)の画像を作成することができるのではないか?」と考えたくなります。実は、冒頭に掲載した画像が、まさにそのようにして作成された画像なのです。
冒頭の画像ではステファンの五つ子銀河のうち、物理的に結びついている4つの銀河を含む領域が捉えられています。画像の作成にはウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡だけでなく、ハワイにある日本の「すばる望遠鏡」が撮影した画像も含まれていることから、「ウェッブ&ハッブル&すばる」望遠鏡による画像、ということになります。
3つの望遠鏡の合作といえる冒頭の画像とハッブル宇宙望遠鏡が撮影した2枚目の画像は、「Astronomy Picture of the Day」(今日の天文学画像、APOD。アメリカ航空宇宙局とミシガン工科大学が運営)に、それぞれ2022月7月18日付と2021月12月18付で掲載されたものです。
なお、最後に「すばる望遠鏡」が撮影したステファンの五つ子も紹介します。こちらは先の2つの画像に対して、左に90度ほど傾いているので注意してください。
さまざまな宇宙望遠鏡や地上の望遠鏡による画像や観測データを組み合わせることで、宇宙は今後も新たな絶景を見せてくれるにちがいありません。
Source
Image Credit: Webb, Hubble, Subaru; NASA, ESA, CSA, NOAJ, STScI; Processing & Copyright: Robert Gendler、NASA, ESA, Hubble Legacy Archive; Processing & Copyright: Bernard Miller、National Astronomical Observatory of Japan Astronomy Picture of the Day - 2022 July 18 - Stephans Quintet from Webb, Hubble, and Subaru Astronomy Picture of the Day - 2021 December 18 - Stephan s Quintet 国立天文台すばる望遠鏡 - ステファンの5つ子 HCG92 (すばるギャラリー)文/吉田哲郎