こちらは南天の「かじき座」の方向約17万光年先にある大質量星「R136a1」とその周辺を捉えた画像です。チリのセロ・パチョンにあるジェミニ天文台の「ジェミニ南望遠鏡」に搭載されている観測装置「Zorro」を使って取得されたもので、米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)から2022年8月18日付で公開されました。
R136a1は、天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)のひとつ「大マゼラン雲」(大マゼラン銀河とも)にある輝線星雲「タランチュラ星雲」(Tarantula Nebula、かじき座30)の中心付近にある散開星団「R136」の一員です。NOIRLabの天文学者Venu M. Kalariさんを筆頭とする研究チームは、R136a1の質量が太陽の170~230倍だと考えています。研究チームは2021年10月にZorroを使ってR136a1の高解像度画像を取得し、質量の推定値を算出しました。
NOIRLabによると、R136a1は既知の恒星のなかでも質量が最も大きく、過去の研究では太陽の250~320倍と推定されていたといいます。Kalariさんたちが算出した質量は従来の予想よりも下方修正されていますが、それでもなおR136a1は既知の恒星で最も重いままだといいます。「私たちの研究結果は、既知の最も重い星(R136a1)がこれまで考えられていたほど重くはないことを示しています」(Kalariさん)
太陽と比べて8倍以上重い星は、恒星としての寿命を終える時に超新星爆発を起こします。特に、質量が太陽の150倍以上もある恒星は、電子対生成不安定型超新星(PISN:Pair-Instability Supernovae、対不安定型超新星とも)と呼ばれる激しい爆発を起こすとされています。宇宙に存在する重元素(水素やヘリウムよりも重い元素全般)の一部は、このような激しい超新星爆発が起きた時に生成されてきたと考えられています。
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Kalariさんたちの研究成果が示すように、もしもR136a1の質量が従来の予想よりも小さいとすれば、他の大質量星にも同じことが言えるかもしれません。従来の予想よりも大質量星の質量が小さいとすれば、電子対生成不安定型超新星が起きる頻度も予想より低い可能性があります。今回の研究成果は結果的に、重元素の起源に関する理解にも影響を及ぼすことになりそうです。
なお、今回の観測に用いられたジェミニ南望遠鏡のZorroは、短時間の露光で得られた複数の画像を合成することで高解像度の画像を得る「スペックル・イメージング(speckle imaging)」という手法を利用した観測装置です。南北両半球で口径8.1mの望遠鏡を運用するジェミニ天文台では、ハワイの「ジェミニ北望遠鏡」にも同型の観測装置「'Alopeke」(※)を設置しています。
※…'Alopeke(アロペケ)はハワイ語、Zorro(ゾロ)はスペイン語で、どちらも「キツネ(狐)」の意味
NOIRLabによると、R136の観測では露光時間60ミリ秒の画像を40分かけて4万枚取得し、慎重に合成することで、過去に「ハッブル」宇宙望遠鏡を使って観測が行われた時よりも高解像度の画像が得られました。他の星々と明確に分離し、より正確な明るさを知ることで、R136a1の質量が従来の予想よりも小さいことが明らかになったとのことです。
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Source
Image Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA; Acknowledgment: Image processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), M. Zamani (NSF’s NOIRLab) & D. de Martin (NSF’s NOIRLab) NOIRLab - Sharpest Image Ever of Universe’s Most Massive Known Star文/松村武宏