アメリカ航空宇宙局(NASA)などは8月25日付で、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡が太陽系外惑星の大気中に存在する二酸化炭素の証拠を検出したと発表しました。NASAによると、二酸化炭素の存在を示す明確で詳細な証拠が系外惑星で検出されたのは今回が初めてのことであり、水やメタンといった生命活動にも結びつく可能性がある物質の測定にも期待が寄せられています。
■二酸化炭素の存在を示すスペクトルのピークを検出ウェッブ宇宙望遠鏡によって二酸化炭素の証拠が検出されたのは、「おとめ座」の方向約700光年先にある系外惑星「WASP-39b」です。WASP-39bの質量は木星の約0.28倍で、太陽に似た恒星である親星の「WASP-39」から約0.049天文単位(※)しか離れていない軌道を約4日で1周しているとみられています。表面は摂氏約900度まで加熱されていて、直径は木星の約1.27倍まで膨張していると考えられています。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。0.049天文単位は太陽-水星間の平均距離の約8分の1。
カリフォルニア大学サンタクルーズ校のNatalie Batalhaさん率いる研究チームは、系外惑星WASP-39bが恒星WASP-39の手前を通過する「トランジット」が起きた時の様子を、ウェッブ宇宙望遠鏡を使って観測しました。Batalhaさんたちは、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを系外惑星の研究者へできるだけ早く提供することを目的とした「アーリーリリースサイエンス」プログラムの一環として、今回のWASP-39bの観測を行いました。
恒星の手前を惑星が横切ると、惑星が恒星の一部を隠すことで、ごくわずかながらも恒星の明るさが一時的に暗くなります。この惑星に大気が存在する場合、トランジット中に観測された恒星の光には、惑星の大気を通過してきた光が含まれることになります。惑星の大気を構成する様々な物質はそれぞれ特定の波長の電磁波を吸収するため、惑星の通過中に恒星の光のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)を得る分光観測を行うことで、惑星の大気にどのような物質が存在するのかを知ることができます。
研究チームがウェッブ宇宙望遠鏡に搭載されている近赤外線分光器「NIRSpec」を使ってWASP-39のスペクトルを取得したところ、二酸化炭素に吸収される波長4.3μmの赤外線が、WASP-39bの通過中に強く吸収されていたことがわかりました。
WASP-39bの大気でどの波長の光がどれくらい吸収されたのかを詳しく調べるために、研究チームはWASP-39bが通過している時と通過していない時のWASP-39のスペクトルを比較しました。その結果、二酸化炭素の存在を示すピークが波長4.1~4.6μmの間に現れたのです。冒頭でも触れたように、二酸化炭素の存在を示す明確で詳細な証拠が系外惑星で検出されたのは、今回が初めてのことだといいます。
NASAによれば、系外惑星の大気を通過してきた光のスペクトル(透過スペクトル)のうち波長3.0~5.5μmの範囲は、二酸化炭素をはじめ水(水蒸気)やメタンといった気体の存在量を測定する上で重要だといいます。今回の観測結果について、Batalhaさんは「より小さな地球サイズの系外惑星における大気の検出につながる良い前兆です」と語っています。
2022年夏から本格的な科学観測を始めたばかりのウェッブ宇宙望遠鏡は、すでに銀河や星雲などの鮮明な姿を捉え、観測史上最遠方とみられる初期宇宙の銀河や観測が難しい褐色矮星も検出し始めています。系外惑星の分野でもウェッブ宇宙望遠鏡による今後の観測が楽しみです。
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Image Credit: NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI) NASA - NASA’s Webb Detects Carbon Dioxide in Exoplanet Atmosphere ESA - Webb detects carbon dioxide in exoplanet atmosphere STScI - NASA’s Webb Detects Carbon Dioxide in Exoplanet Atmosphere文/松村武宏