こちらは「うお座」の方向約3200万光年先にある渦巻銀河「M74(Messier 74)」です。名称の「Messier(メシエ)」は、18世紀にフランスの天文学者シャルル・メシエがまとめた「メシエカタログ」に記載されていることを示しています。M74は明瞭な渦巻腕(渦状腕)を持つことから、はっきりと目立つ渦巻腕がある「グランドデザイン渦巻銀河」(grand design spiral galaxy)に分類されています。
渦巻構造を支える骨格のように張り巡らされた赤色の構造は、赤外線で捉えられた塵の分布を示しています。明るいオレンジ色に着色されているところは、塵の温度がより高温になっている部分です。銀河の中心部分や渦巻腕に分布する星々からの光は、青色に着色されています。また、銀河全体に広がった塵のあちこちに見えるピンク色の領域は、若い星の紫外線によって電離した水素ガスが赤い光を放っているHII領域の位置を示しています。
実はこの画像の作成には、「ハッブル」宇宙望遠鏡の「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」および「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の「中間赤外線装置(MIRI)」を使って、可視光線の青色光から中間赤外線にかけての8種類のフィルターを通して取得された画像が使われています。画像を公開した欧州宇宙機関(ESA)は、これほど様々な銀河の特徴を1つの画像で見られるのは貴重なことだと解説しています。
次の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡のACSを使って取得されたM74です。M74は地球に対して正面を向けた、いわゆるフェイスオン銀河であるため、渦巻構造を詳細に観察することができます。
中心から広がる青い渦巻腕のあちこちで咲く花のような赤い領域は、電離した水素ガスが光を放つHII領域です。HII領域はガスと塵を材料に星が生み出される星形成の現場でもあることから星形成領域とも呼ばれていて、宇宙と地上の望遠鏡にとって重要な観測対象となっています。
最後の画像は、ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIを使って取得されたM74です。MIRIは人が見ることのできない中間赤外線で天体を観測するため、画像の色は4種類の波長に応じて青・シアン・オレンジ・赤に着色されています。M74を観測したウェッブ宇宙望遠鏡は、中心から外側へと広がっていく壮大な渦巻腕のなかにある、ガスと塵の繊細なフィラメント(ひも)状構造を捉えています。
ハッブル宇宙望遠鏡によるM74の観測は、近傍宇宙の銀河を対象とした観測プロジェクト「PHANGS」(Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS)の一環として実施されました。チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」や、同じくチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」も参加したPHANGSプロジェクトでは、銀河における星形成を理解するために、様々な波長の電磁波を使った高解像度の観測が5年以上の歳月をかけて行われています。
ESAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡によるM74の観測もまたPHANGSプロジェクトの一環として行われました。ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データが加わることで、研究者は星形成領域をピンポイントで特定できるようになるだけでなく、星団の年齢と質量を正確に測定し、星間空間を漂う塵の性質についての知見を得られるようになるとのことです。
2つの宇宙望遠鏡が取得したM74の画像は、ハッブル宇宙望遠鏡の今週の一枚およびウェッブ宇宙望遠鏡の今月の一枚として、ESAから2022年8月29日付で公開されています。
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Source
Image Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, J. Lee and the PHANGS-JWST Team; ESA/Hubble & NASA, R. Chandar; Acknowledgement: J. Schmidt ESA/Hubble - Hubble Gazes into M74 ESA/Webb - Webb Inspects the Heart of the Phantom Galaxy文/松村武宏