日本時間2021年11月24日、アメリカ航空宇宙局(NASA)は探査機「DART」の打ち上げに成功しました。DARTとは「Double Asteroid Redirection Test」(二重小惑星方向転換試験)の略。このミッションでは史上初となる惑星防衛(※)の技術実証として、実際に探査機を小惑星に衝突させて軌道を変更することが試みられます。
※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと
2013年2月にロシア上空で爆発して1000名以上を負傷させた小惑星のように、地球への天体衝突は現実の脅威です。地球に接近する軌道を描く「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object、地球接近小惑星)と呼ばれている小惑星のうち、特に衝突の危険性が高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されていて、将来の衝突リスクを評価するために追跡観測が行われています。
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ある小惑星が地球に衝突する確率が高いと判断された場合、事前に衝突体(インパクター)をぶつけて小惑星の軌道を変えることで、甚大な被害をもたらす衝突を回避できるかもしれません。DARTは、この「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれる手法を初めて実証するミッションです。
ミッションのターゲットは、小惑星「ディディモス」(65803 Didymos、直径780m)とその衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)からなる二重小惑星です。ディディモスは約2.1年周期で太陽を周回するアポロ群の小惑星で、ディモルフォスはその周りを11時間55分周期で公転しています。DARTは二重小惑星のうち衛星であるディモルフォスのほうへ、日本時間2022年9月27日8時14分に衝突する予定です。
DARTの探査機本体のサイズは約1.2×1.3×1.3mで、長さ8.5m(展開時)の太陽電池アレイを2基備えています。探査機にはイタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が搭載されていて、衝突の10日ほど前に分離された後、DART探査機の衝突やその噴出物などを撮影することも試みられます。
ミッションを主導するジョンズ・ホプキンス大学の応用物理学研究所(APL)によると、ディモルフォスの推定質量は50億kg(500万トン)、衝突時点でのDARTの質量は570kgと予想されています。探査機がほぼ正面から秒速6.1kmで衝突することで、ディモルフォスの公転周期は数分短くなると考えられています。
APLによれば、ディモルフォスはPHAに分類されているものの、現時点ではその軌道が地球の公転軌道と交差することはないと予測されており、実際の脅威になることはないとされています。また、DARTが体当たりしても圧倒的に質量が大きなディモルフォスを破壊することまではできず、衝突後のディモルフォスはディディモスへわずかに近付いた軌道を描くことになるなど、ミッションは慎重に計画されているといいます。
2022年7月初旬には、ローウェル天文台(米国アリゾナ州)の「ローウェルディスカバリー望遠鏡」とラスカンパナス天文台(チリ)の「マゼラン望遠鏡」を用いて、6夜に渡るディディモスおよびディモルフォスの観測が行われました。地球から見たディモルフォスはディディモスの手前を通過したり、ディディモスの裏側へ隠れたりするように公転しているため、ディディモスとディモルフォスからなる二重小惑星の明るさは規則的に変化します。その様子を観測することで、ディモルフォスの公転周期を測定し、ある時点での位置を予測することができます。
NASAによると、今回の観測結果をもとに示されたディモルフォスの軌道は、以前の計算と一致していました。この観測によって、探査機が衝突する時のディモルフォスの位置を確認できただけでなく、軌道変更の成否や変化の度合いを判断するためのプロセスを改良できたとのことです。
今はまだ確立されていない「衝突体を体当たりさせて小惑星の軌道をそらす」技術を実証するDARTミッション、その成否に注目です。
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Image Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben, Lowell Observatory/N. Moskovitz NASA - DART Team Confirms Orbit of Targeted Asteroid ジョンズ・ホプキンス大学 - DART Team Confirms Orbit of Target Asteroid文/松村武宏