アメリカ航空宇宙局(NASA)は9月8日付で、2025年に実施が予定されている有人月面探査ミッション「アルテミス3」で使用される月面探査用の宇宙服を提供する企業として、アクシオム・スペース(Axiom Space)を選定したことを発表しました。今回契約されたのは2034年までのパフォーマンス期間中に最大35億ドルが見込まれている数量未確定契約(IDIQ)における最初のタスクオーダーで、基準価格は2億2850万ドルとされています。
NASAが主導する「アルテミス(Artemis)」計画は、1960~70年代に実施された「アポロ」計画以来半世紀ぶりとなる有人月面探査計画です。アルテミス計画では永久影(太陽光が届かない範囲)に水の氷が埋蔵されているとみられる月の南極域を焦点に、宇宙飛行士による有人探査や探査機による無人探査が予定されています。また、同計画は月面での持続的な探査活動や将来の有人火星探査も見据えており、宇宙飛行士の飲用水などに利用できる水の氷の探査だけでなく、レゴリス(月の砂)から酸素を抽出する技術の実証実験なども計画されています。
呼吸できる大気が存在しない月面で探査活動を行うには、宇宙服が必要です。NASAが国際宇宙ステーション(ISS)で現在使用している宇宙服「EMU(Extravehicular Mobility Unit、船外活動ユニット)」は、1981年に運用が始まったスペースシャトルと同時期に設計・開発されたものであることから、NASAはアルテミス計画を見据えて次世代宇宙服の導入を計画。2019年10月には月面探査用に開発する新たな宇宙服として「xEMU(Exploration Extravehicular Mobility Unit、探査船外活動ユニット)」が発表されていました。
しかしその後、NASAはxEMUの開発遅延などのために方針を転換し、次世代宇宙服の開発・製造を担う「xEVAS(Exploration Extravehicular Activity Services、探査船外活動サービス)」の契約企業を2021年に募集。2022年6月にはxEVASを提供する企業として、アクシオム・スペースおよびコリンズ・エアロスペースの2社を選定したことを発表していました。
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今回のタスクオーダー契約によりアクシオム・スペースは、1972年12月の「アポロ17号」以来53年ぶり(予定通り2025年に実施された場合)の有人月面探査ミッションとなるアルテミス3で使用される宇宙服を開発・製造することになります。また、アクシオム・スペースは次世代宇宙服を着用する宇宙飛行士のトレーニングや、リアルタイムの運用支援といったサービスも提供します。
なお、アルテミス計画には日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加しています。2023年2月頃に発表が予定されているJAXAの新たな宇宙飛行士候補者にも、次世代宇宙服を着用して月面探査を行う日が訪れるかもしれません。
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Image Credit: NASA NASA - NASA Taps Axiom Space for First Artemis Moonwalking Spacesuits Axiom Space - Axiom Space wins NASA Task Order to Build Next Generation Spacesuits for Artemis III文/松村武宏