こちらは南天の「きょしちょう座」(巨嘴鳥座)にある散開星団「NGC 346」とその周辺の様子です。NGC 346は、地球から約20万光年離れた天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)のひとつ「小マゼラン雲」(SMC:Small Magellanic Cloud、小マゼラン銀河とも)にあります。
星団を包むように取り囲んでいるのは、ガスや塵を材料に新たな星が生み出されている星形成領域です。この領域は星団と同じNGC 346や、あるいは「N66」と研究者から呼ばれています。画像を公開した欧州宇宙機関(ESA)によると、星形成領域としてのNGC 346は直径150光年で、質量は太陽5万個分に相当します。この画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡に搭載されている「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」を使って取得された画像(可視光線と近赤外線のフィルター合計2種類を使用)をもとに作成されました。
画像の上半分に注目すると、ガスと塵でできたアーチ状の構造があることがわかります。星形成領域NGC 346はその不思議な外形に加えて、星々が急速に形成されていることから、研究者から注目を集めてきたといいます。
ハッブル宇宙望遠鏡や「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI、アメリカ)のElena Sabbiさんを筆頭とする研究チームと、Peter Zeidlerさんを筆頭とする研究チームは、星形成領域NGC 346の挙動を解き明かすことに挑みました。Sabbiさんたちは11年に渡るハッブル宇宙望遠鏡の観測データを利用して、NGC 346の星々の動きを測定。また、Zeidlerさんたちはヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」に搭載されている広視野面分光観測装置「MUSE」による観測データを利用して、ガスの立体的な動きを測定しました。
両チームによる分析の結果、NGC 346では星々とガスが「らせん」を描きながら内側へ向けて移動していることが明らかになったといいます。らせん状の動きについてZeidlerさんは「星々やより多くの星の形成を促すガスが中心に向かって移動する上で、最も効率的な方法です」とコメントしています。
最初期の宇宙に存在していた元素の大半は水素とヘリウムで、重元素(水素やヘリウムよりも重い元素全般)は恒星内部の核融合反応や超新星爆発などによって生成されてきたと考えられています。ESAによれば、小マゼラン雲の化学組成は天の川銀河と比べて重元素が少なくよりシンプルであり、小マゼラン雲における星形成を理解することは、初期の宇宙における星形成を理解することにつながります。「星は宇宙を形作る機械です。星がなければ生命も成り立ちませんが、私たちはまだ星の形成を完全には理解していません」(Sabbiさん)
今回の研究成果は、2022年で打ち上げから32周年を迎えたハッブル宇宙望遠鏡の長期間に渡る観測データに支えられています。研究チームは、NGC 346に存在する小質量星の動きを捉えて大質量星と比較し、NGC 346の挙動全体を理解するために、ウェッブ宇宙望遠鏡による観測に期待を寄せています。
関連:小マゼラン雲の大半の大質量星が散らばる星団
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Image Credit: NASA, ESA, A. James (STScI) ESA/Hubble - Spiralling Stars Provide a Window into the Early Universe NASA - NASA's Hubble Finds Spiraling Stars, Providing Window into Early Universe文/松村武宏