アメリカ航空宇宙局(NASA)は日本時間9月27日、ジョンズ・ホプキンス大学の応用物理学研究所(APL)が主導するNASAのミッション「DART」の探査機が、ターゲットの小惑星へ衝突することに成功したと発表しました。
DART探査機は小惑星「ディディモス」(65803 Didymos、直径780m)とその衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)からなる二重小惑星のうち、衛星であるディモルフォスをターゲットに定め、日本時間2022年9月27日8時14分に衝突しました。
唯一の観測装置として搭載されていた光学カメラ「DRACO」で捉えた小惑星の映像を、DART探査機は衝突の瞬間まで地球へ送り続けており、その様子はNASAのライブ配信でも映し出されました。
日米の小惑星探査機がサンプルを採取した小惑星「リュウグウ」や「ベンヌ」をそのまま小さくしたような、表面に多くの瓦礫が目立つディモルフォスの姿が大きく見えるようになり、やがて衝突が確認されると、APLの管制室からは歓喜の声が上がっていました。
【▲ DART探査機からリアルタイムで送られてきた映像と、衝突する瞬間を待つAPL管制室の様子。NASAによるライブ配信のアーカイブより(Credit: NASA)】
ディディモスは約2.1年周期で太陽を周回するアポロ群の小惑星で、ディモルフォスはその周りを11時間55分周期で公転しています。NASAによると、秒速6.1kmで飛行していたDART探査機の衝突によってディモルフォスの公転周期は約10分短くなったと予想されており、地上の望遠鏡を使って今後確認される予定です。
また、DART探査機からは衝突の15日前に、イタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が分離していました。LICIACubeはディモルフォスへのDART探査機の衝突やその噴出物などを観測するために搭載されていたもので、取得された画像は今後数週間かけて地球へ送信される予定です。
地球に接近する軌道を描く「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object、地球接近小惑星)と呼ばれている小惑星のうち、特に衝突の危険性が高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されていて、将来の衝突リスクを評価するために追跡観測が行われています。
2013年2月にロシア上空で爆発して1000名以上を負傷させた小惑星のように、地球への天体衝突は現実の脅威です。ある小惑星が地球に衝突する確率が高いと判断された場合、事前に衝突体(インパクター)を体当たりさせて小惑星の軌道を変えることで、甚大な被害をもたらす小惑星の衝突を回避できるかもしれません。
DART(Double Asteroid Redirection Test、二重小惑星方向転換試験の略)は惑星防衛(※)の一環として、この「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれる手法を初めて実証するミッションなのです。なお、NASAによれば、ディディモスとディモルフォスの二重小惑星はミッションのターゲットに選ばれはしたものの、地球の脅威となる小惑星ではないとされています。
※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと
今回のミッションで得られた知見は、将来の惑星防衛に活かされることになります。NASA科学ミッション本部副本部長のThomas Zurbuchenさんは「宇宙の小さな天体へ衝突させるのに必要な精度で機体を誘導できることがわかりました。小惑星の移動経路に大きな違いをもたらすには、ほんの少しだけ速度を変えれば十分です」とコメントしています。「衝突体を体当たりさせて小惑星の軌道をそらす」技術を実証するDARTミッション、その結果に注目です。
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Image Credit: NASA/Johns Hopkins APL NASA - NASA’s DART Mission Hits Asteroid in First-Ever Planetary Defense Test文/松村武宏