アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間9月29日、「ハッブル」宇宙望遠鏡の軌道高度を上昇させるミッションの実現可能性を調査するための協定が、スペースXとの間で9月22日に結ばれたことを発表しました。
NASAによるとこのミッションは、スペースXが民間プロジェクトのポラリスプログラムと協同で提案しました。ポラリスプログラムは実業家のジャレド・アイザックマンさんが率いるプロジェクトで、スペースXの有人宇宙船「クルードラゴン」を用いた民間宇宙飛行ミッション「ポラリス・ドーン」の実施を2023年3月以降に計画しています。同ミッションでは民間初の船外活動などが行われる予定です。
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スペースXとポラリスプログラムはドラゴン宇宙船とハッブル宇宙望遠鏡の技術データを集め、安全なランデブーやドッキング、より高い軌道への移動といった技術的課題を検討します。調査には最大6か月かかると予想されています。
なお、今回結ばれた協定では、NASAによるサービスミッションの実施や資金提供、競合の機会などは計画されておらず、排他的な取り組みでもないとされています。NASAは、スペースXとポラリスプログラム以外の企業からも同様の調査が提案される可能性に言及しています。
1990年4月に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、地球低軌道を32年以上に渡って周回し続けています。スペースシャトル「ディスカバリー」から放出された時の高度は約615kmでしたが、地球低軌道では希薄な大気との抵抗によって高度が少しずつ下がるため、現在のハッブル宇宙望遠鏡は高度約540kmを飛行しています。
近い将来、ハッブル宇宙望遠鏡が大気圏に再突入することは避けられず、NASAはその時期を2030年代半ばから後半と予測しています。ただし、今よりも安定した高度まで上昇させることができれば、さらに数年長く運用できる可能性があるようです。また、NASAは運用を終えたハッブル宇宙望遠鏡を制御落下させるか、あるいはさらに高い高度へ上昇させて数十年間飛行させ続ける予定ですが、そのためには何らかの形でハッブル宇宙望遠鏡に推進力を提供しなければなりません。
ハッブル宇宙望遠鏡は1993年から2009年にかけて、スペースシャトルによる5回のサービスミッションを受けています。現在も観測に用いられている「掃天観測用高性能カメラ(ACS)」や「広視野カメラ3(WFC3)」は、どちらもサービスミッションで搭載された装置です。しかし、2011年にスペースシャトルが退役してからは、ハッブル宇宙望遠鏡のサービスミッションを実施できなくなっていました。
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広大な貨物室やロボットアームを備えていたスペースシャトルと同じようなメンテナンスは行えないとしても、クルードラゴンによる軌道高度の上昇が可能と判断されれば、ハッブル宇宙望遠鏡の新たなサービスミッションが実現するかもしれません。
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Image Credit: NASA NASA - NASA, SpaceX to Study Hubble Telescope Reboost Possibility NASA - About - Facts | Hubble FAQs Polaris Program文/松村武宏