既報の通り、アメリカ航空宇宙局(NASA)のミッション「DART」の探査機は日本時間2022年9月27日8時14分、小惑星「ディディモス」(65803 Didymos、直径780m)とその衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)からなる二重小惑星のうち、衛星であるディモルフォスへ衝突することに成功しました。
ある小惑星が地球に衝突する確率が高いと判断された場合、事前に衝突体(インパクター)を体当たりさせて小惑星の軌道を変えることで、甚大な被害をもたらす小惑星の衝突を回避できるかもしれません。DART(Double Asteroid Redirection Test、二重小惑星方向転換試験の略)は惑星防衛(プラネタリーディフェンス※)の一環として、「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれるこの手法を初めて実証するミッションです(詳しくは以下の関連記事をご覧下さい)。
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※…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと
NASAは9月29日付で、DART探査機の衝突にともなってディモルフォスから放出された噴出物(イジェクタ)を捉えた「ハッブル」宇宙望遠鏡と「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の画像を公開しました。ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡が同時に同じ天体を観測するのは、今回が初めてです。
冒頭に掲載したのはハッブル宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」で波長350nmのフィルターを使って撮影された画像(青色に着色)で、衝突の22分後・5時間後・8.2時間後に撮影されたものが左から順に並べられています。なお、NASAからは3枚の画像を連続表示したアニメーションバージョンも公開されています。
ハッブル宇宙望遠鏡はディモルフォスから放出された噴出物が時間の経過とともに広がっていく様子を捉えています。衝突前後に撮影されたハッブル宇宙望遠鏡の画像を比較した研究者は、二重小惑星がDART探査機の衝突後に3倍明るくなったと見積もりました。また、衝突から8時間が経ってもその明るさで安定していたことにも関心が寄せられています。
いっぽう、こちらはウェッブ宇宙望遠鏡の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で波長700nmのフィルターを使って、衝突の約4時間後に撮影された画像(赤色に着色)です。NASAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡は衝突直前から5時間に渡って10枚の画像を取得しており、衝突地点からたなびく煙のように離れていく噴出物のプルームが捉えられています。
NASAはウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した画像についても、次のアニメーションバージョンを公開しています。なお、画像に見える針状の光は回折スパイク(diffraction spike)と呼ばれるもので、望遠鏡の構造によって生じています。
ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡によるディモルフォスの観測は今後も続けられます。NASAによると、ハッブル宇宙望遠鏡はディモルフォスを今後3週間で10回観測し、噴出物の雲が拡大・消失する様子を定期的に捉えます。ウェッブ宇宙望遠鏡は今後数か月に渡って「中間赤外線装置(MIRI)」と「近赤外線分光器(NIRSpec)」を使ってディモルフォスを観測し、小惑星の化学組成に関する知見を研究者に提供する予定とのことです。
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Image Credit: NASA, ESA, Jian-Yang Li (PSI), Cristina Thomas (Northern Arizona University), Ian Wong (NASA-GSFC); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI), Joseph DePasquale (STScI) NASA - Webb, Hubble Capture Detailed Views of DART Impact ESA/Hubble - Webb and Hubble Capture Detailed Views of DART Impact ESA/Webb - Webb and Hubble Capture Detailed Views of DART Impact STScI - Webb, Hubble Capture Detailed Views of DART Impact文/松村武宏