こちらの画像に写っている丸い物体、皆様には何に見えるでしょうか。ちょっとぼやけているものの、磨かれた大理石の球のようにも思えるこの物体の正体は、地上の大型望遠鏡で撮影された木星の衛星エウロパです。
撮影に使われたのは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営するチリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「SPHERE」(※1)です。赤外線のフィルター(波長2.11μmと2.251μmの2種類)を使って取得したモノクロ画像を、波長に応じて黄色と青色に着色・合成することで作成されています。
SPHEREはエウロパだけでなく、その外側を公転する別の衛星ガニメデも捉えました。次に掲載する画像に写っているのが、SPHEREで取得された画像をもとに作成されたガニメデの姿です。エウロパの直径は地球の月に次ぐ3121kmですが、ガニメデの直径は水星を上回る5268kmもあります。2つの衛星は木星や他の衛星との相互作用による潮汐加熱(※2)が熱源となって、表面を覆う氷殻の下に液体の水をたたえた内部海が存在すると考えられています。
レスター大学(イギリス)のOliver KingさんとLeigh N. Fletcherさんは、SPHEREの観測データを用いてエウロパやガニメデの表面に存在する化学種の分析を行い、2本の論文にまとめました。VLTのSPHEREを用いたエウロパの観測は2014年12月に、ガニメデの観測は2015年2月および2021年7月と9月に実施されています。
可視光線で見たガニメデの表面は、比較的新しくて明るい領域と、古くて暗い領域に分かれています。ESOによるとKingさんとFletcherさんは、ガニメデ表面の明るい領域が主に水の氷でてきていて、さまざまな種類の塩が少量ずつ含まれていることを発見したといいます。いっぽう、暗い領域の組成はまだ謎のままであるようです。
木星の衛星を地球上から観測するのは簡単なことではありません。ESOによれば、地球から見たエウロパやガニメデの見かけの大きさは、3~5km離れたところに置かれた1ユーロ硬貨(直径23.25mm、日本では十円硬貨がこれに近い直径23.5mm)と同程度でしかないうえに、その像は地球の大気のゆらぎによる影響を受けてぼやけてしまいます。
そこで、VLTでは大気のゆらぎによる影響を打ち消す「補償光学」(AO:Adaptive Optics)技術を利用することで、宇宙望遠鏡にも匹敵する解像度での観測を実現しました。補償光学はVLTをはじめ、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」など世界各地の大型望遠鏡で活用されています。
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VLTのSPHEREで撮影されたエウロパとガニメデの画像は、ESOから2022年10月10日付で公開されました。
※1…Spectro-Polarimetric High-contrast Exoplanet REsearch(分光偏光高コントラスト太陽系外惑星探査)の略。
※2…別の天体の重力がもたらす潮汐力によって天体の内部が変形し、加熱される現象のこと。
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Source
Image Credit: ESO/King & Fletcher ESO - The icy moons of Jupiter King et al. - Compositional Mapping of Europa Using MCMC Modeling of Near-IR VLT/SPHERE and Galileo/NIMS Observations (The Planetary Science Journal) King et al. - Global Modelling of Ganymede's Surface Composition: Near-IR Mapping from VLT/SPHERE (arXiv)文/松村武宏