昨年10月に自動車部品販売会社を経営する男性が、会社の資金を着服したとして、業務上横領の疑いで逮捕されました。男性は、放漫経営を従業員に指摘され、それをキッカケに社員と仕事をするのが嫌になり、会社をつぶそうと思ったとのこと。ちなみにこの事実が発覚したのは、同社破産の際の、破産管財人が、警視庁に告発したことによるものです。
今回はこのケースを元に、従業員は経営者に対して損害賠償請求が出来るかどうかについて触れていきます。
経営が嫌になった株式会社の代表取締役が会社を潰そうと画策し、会社の資金の大半を引き出し、私的に着服。その結果、会社は事業を継続できなくなり倒産。そして、それとともに労働者が職を失った場合、労働者は一体どうなるのでしょうか。井上義之弁護士に話を聞いてみました。
■損害賠償請求は可能!
まずは単刀直入に、上述したケースにおいて、労働者は経営者に対して損害賠償請求は可能なのでしょうか。
「結論から申しますと、労働者は会社法429条1項に基づきこの事例の代表取締役に対して損害賠償請求できると考えられます」(井上義之弁護士)
ズバリ出来る、と井上義之弁護士は言います。ちなみに会社法429条1項とはなんでしょうか。
「会社法429条1項は経営者の責任に関して、『役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う』と規定しています」(井上義之弁護士)
「代表取締役は会社に対して忠実義務を負っていますので(会社法355条)、経営が嫌になってわざと会社をつぶす行為が『役員等がその職務を行うについて悪意・・・があったとき』であることは明らかです代表取締役の使い込みで会社が破綻して労働者は職を失ったのですから因果関係もあるといえるでしょう(説明は割愛しますが、会社法429条1項の「第三者」には当該会社に働く労働者も含み、また会社法429条1項の「損害」には会社に損害が生じ二次的に第三者に生じた損害も含むと解されています)。従って、労働者は会社法429条1項に基づきこの代取に対して損害賠償請求できると考えられます」(井上義之弁護士)
■会社法に基づく損害賠償請求だけでなく、民法709条に基づいて損害賠償請求も可能かもしれません!
井上義之弁護士は更に興味深いことに触れてくれました。
「また、事例のようなケースでは、代表取締役の行為が端的に労働者に対する不法行為にあたるとして、民法709条に基づいて損害賠償を求める余地もあると思われます。ただし、会社法429条1項に基づく請求権の時効が10年であるのに対し、民法709条に基づく請求権の時効は3年です」(井上義之弁護士)
それぞれの請求権に対する時効が異なることは抑えておくべきでしょう。ちなみに損害賠償はどの部分について認められる可能性があるのでしょうか。
「損害賠償の額について説明を付け加えますと、突然職を失ったことに対する慰謝料が中心になると思われます」(井上義之弁護士)
「交通事故などと異なり、労働能力自体は失われませんので、例えば定年までにもらえるはずだった賃金相当額の賠償請求等は困難と考えられます(もちろん、実際に働いた分の賃金が会社から払われなかった場合は未払賃金相当額も損害となります)」(井上義之弁護士)
『代表取締役があまり会社に出勤してこない』、『普段何をやっているのかわからない』などの疑問を感じている方は、覚えておいて決して損はないでしょう。明日は我が身かもしれません。
今回はこのケースを元に、従業員は経営者に対して損害賠償請求が出来るかどうかについて触れていきます。
経営が嫌になった株式会社の代表取締役が会社を潰そうと画策し、会社の資金の大半を引き出し、私的に着服。その結果、会社は事業を継続できなくなり倒産。そして、それとともに労働者が職を失った場合、労働者は一体どうなるのでしょうか。井上義之弁護士に話を聞いてみました。
■損害賠償請求は可能!
まずは単刀直入に、上述したケースにおいて、労働者は経営者に対して損害賠償請求は可能なのでしょうか。
「結論から申しますと、労働者は会社法429条1項に基づきこの事例の代表取締役に対して損害賠償請求できると考えられます」(井上義之弁護士)
ズバリ出来る、と井上義之弁護士は言います。ちなみに会社法429条1項とはなんでしょうか。
「会社法429条1項は経営者の責任に関して、『役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う』と規定しています」(井上義之弁護士)
「代表取締役は会社に対して忠実義務を負っていますので(会社法355条)、経営が嫌になってわざと会社をつぶす行為が『役員等がその職務を行うについて悪意・・・があったとき』であることは明らかです代表取締役の使い込みで会社が破綻して労働者は職を失ったのですから因果関係もあるといえるでしょう(説明は割愛しますが、会社法429条1項の「第三者」には当該会社に働く労働者も含み、また会社法429条1項の「損害」には会社に損害が生じ二次的に第三者に生じた損害も含むと解されています)。従って、労働者は会社法429条1項に基づきこの代取に対して損害賠償請求できると考えられます」(井上義之弁護士)
■会社法に基づく損害賠償請求だけでなく、民法709条に基づいて損害賠償請求も可能かもしれません!
井上義之弁護士は更に興味深いことに触れてくれました。
「また、事例のようなケースでは、代表取締役の行為が端的に労働者に対する不法行為にあたるとして、民法709条に基づいて損害賠償を求める余地もあると思われます。ただし、会社法429条1項に基づく請求権の時効が10年であるのに対し、民法709条に基づく請求権の時効は3年です」(井上義之弁護士)
それぞれの請求権に対する時効が異なることは抑えておくべきでしょう。ちなみに損害賠償はどの部分について認められる可能性があるのでしょうか。
「損害賠償の額について説明を付け加えますと、突然職を失ったことに対する慰謝料が中心になると思われます」(井上義之弁護士)
「交通事故などと異なり、労働能力自体は失われませんので、例えば定年までにもらえるはずだった賃金相当額の賠償請求等は困難と考えられます(もちろん、実際に働いた分の賃金が会社から払われなかった場合は未払賃金相当額も損害となります)」(井上義之弁護士)
『代表取締役があまり会社に出勤してこない』、『普段何をやっているのかわからない』などの疑問を感じている方は、覚えておいて決して損はないでしょう。明日は我が身かもしれません。